こんにちは、ゲスト

ショッピングカート

インタビュー

Radiohead

6作目となる最新アルバム『Hail To The Thief』から聞こえてくるのは、2003年の原風景。そして、5人が鳴らす生々しいまでのロックンロールだ!!

〈ロック・バンド〉としての最新アルバム


「音楽的には、これまでのなかでもっとも楽しみながら作れたポジティヴなアルバムだといえる。ちょっとクサイ言い方かもしれないけど……」。

トム・ヨークはニュー・アルバム『Hail To The Thief』の仕上がりに、これまでとは少し違う充実感を抱いているようだ。

「バンドでいること、つまり僕ら5人で音楽を生み出すということをみずから祝うことができた作品さ。その点はスゴく良かったと思うし、バンドとしてある時代に終わりを告げて、新たな時代の始まりを告げるような存在ともいえる」。

レディオヘッド第6のアルバム『Hail To The Thief』を、僕はまずデカいスピーカーで聴いたのだが、それはまるでスピーカーのコーンからアンプの回路に吸い込まれそうなくらい迫力と魅力に満ちたパワフルなサウンドで、彼らがネクスト・レヴェルに階層を上げたことを容易に判断できるものだった。“2+2=5”“Sit Down. Stand Up”でアルバムは激しく静と動の感情を揺さぶりながら幕を開ける。2001年のライヴ作品『I Might Be Wrong』も良い布石になったという先行シングル“There There”に代表されるようなライヴ感を閉じ込めた曲もあれば、知能を得たゲーム・マシンがプレイしているかのような“Backdrifts”やクレイジーな電子音とノイズ音の“The Gloaming”、静かで優しい“Sail To The Moon”、ブルージーな“A Punch-Up At A Wedding”といった曲もある。レディオヘッドというオンリーワンなアート性のもと、14のトラックがそれぞれの個性を放っている。例えば“Myxamatosis”はこうだ。

「ライヴではヘヴィーなギター・サウンドによるロック丸出しのイカした曲なんだけど、アルバムではなかなかうまく再現できなくて、どうしたらいいのか途方に暮れていたときにギターを抑え気味にしてみたら〈あっ、これだ!〉って発見して。それにジョニー(・グリーンウッド:ギター/キーボード)がこのキーボード・サウンドを付けてくれてね。スゴくいい感じに仕上がっていると思うよ」。

『Hail To The Thief』は昨年9月から今年2月にかけて、のべ7週間ほどの短期間でレコーディングされた。曲自体は数年前に書かれたものもあるが、アルバムは限界といえる速度で仕上がった。「とにかく短期間で仕上げなければならなかった」という状況も、その出来についてうだうだ心配する暇もなく、何かに取り憑かれたかのように集中して制作が進められたことから良い結果に。

「レコーディングを行いながら、その場の流れに身を任せたような感じだった」。

 コンセプトをあれこれ考え込む暇もなかったようだが、アルバム全体にはこれまでにはなかったようなバランス感覚があり、バンドとしての定位置に返り咲いたような、もしくはそのポジションをあらためてリセットしたような印象を抱かせた。当初〈『The Bends』に近いのでは?〉という憶測も呼んだが、もっと……10年前の『Pablo Honey』からツインズの『Kid A』と『Amnesiac』、そして『I Might Be Wrong』、さらに「サウスパーク」への出演(笑)までの経験、そこから成長したバンドのスキルがナチュラルに、そしてリアルに反映されている。

「一気に曲が生まれるようなケースは僕にはないんだ。何かキッカケがあって、それにあとから付け足していくような感じだから」。

 それでも今回は制作期間が短かったこともあって、意識的に曲を作る機会が多かったという。マッドだったり、シニカルだったり、ユーモアがあり、さまざまな表情をみせる歌詞について──例えば、チープなオーケストラのようなキーボード・サウンドに多くの言葉が投げかけられるラストの“A Wolf At The Door”。

「この歌詞は2日間で書き上げたんだ。結構ヤバい精神状態でね。2日間ほど、朝から夕方までオックスフォードの街中をウロウロして。大部分は、あるギャラリーでの展示作品を見たときに出来上がったんだ。かなり暗いイメージの映像で、60年代にピンク・フロイドが使っていたような作品さ。薄暗い展示室でその映像を眺めながら詩を書いて、また外を歩き回っては戻ってくるっていう。そんなことを何度も繰り返していたから、妙なヤツだと思われただろうな(笑)。本当にヤバい状態だったし。オックスフォードにいる友人の一人がナイフで首を刺されたこともあってね。奇跡的に命は取りとめたんだけど。オックスフォードっていうと、明るいイメージを持つ人が多いかもしれないけど、実際にはスゴく危ない街なんだ。週末なんてマッドだよ。そんななかで、あの狂気の世界が描かれたわけだけど、僕にとっては日常茶飯事だから(笑)」。

▼レディオヘッドの過去作を紹介(次ページに続く)

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2003年06月05日 11:00

更新: 2003年06月26日 19:42

ソース: 『bounce』 243号(2003/5/25)

文/栗原 聰