Radiohead(2)
共有・共感のための触媒役
詞に特定のメッセージを込めることはなく、あえて社会情勢を反映したような曲もない、とトム。これは政治的なアルバムではないし、反戦レコードでもない──そう思い込みたい人がいるなら、勝手にしてもらうしかない、と。
「〈NME〉誌ではそんなふうに書かれていたけど、僕らはそんな見え見えのことはしないよ(笑)」。
『Hail To The Thief』というタイトルは、アメリカ大統領選の際にブッシュへの抗議のために使われたスローガンでもあるのだが、たしかに、レディオヘッドはそんな見え見えのことをするようなバンドじゃない、か。
「いろいろなニュアンスが含まれているんだ。僕にとっては、この世にはびこる邪悪な力を象徴している(笑)。悪魔に魂を売り渡してしまって、同じ人間とは思えないような行為をする人たちのことさ。そんな考えが、長いこと僕の頭から離れなくてね。人間を、ほかの人々に危害を加えるような行為に走らせる何かが存在するんだ。何百万人もの人々の命を奪ってしまうような悲惨な行為をさせてしまう何かが。何をどう考えたら平気でそんなことができるようになるのか。単に〈奴らは狂ってしまっている〉っていうことでは済まされないと思う。彼らは〈自分は正しいことをしている〉と信じて、毎日そんな行為をするわけだから。なぜそう信じるようになってしまったのかを理解しなければならない。いまの世の中は無知と愚考がまかり通ってしまっていて、人々は恐怖心に駆られながら物事に過剰な反応を示すようになってしまい、その緊迫した状態から逃れようと、悪魔に救いを求めるようになってしまっている。こういったことは、すべて邪悪な力の影響なんだ。人々を取り巻く巨大で邪悪な力が、自分たちは正しいことをしていると人々に信じ込ませていると思う──僕にとっては、このアルバムはその邪悪な力についての作品なんだ。われわれの未来や、未来を手に入れる可能性までをも奪い取ってしまいそうな悪の力についての作品。その力はこの世のものとは思えない。人間の仕業とは思えないからね」。
じゃ、あえて訊くけど、音楽で世界は変わると思う?
「世界が変わるとは思わないけど、有効な手段ではあると思う。本来はあるべきではない、さまざまな障壁を取り除いていくための手段としてね。何か大切なものを世界中で共有・共感しているという感覚を人々に持ってもらうには、聴く人の心に訴えかけるような音楽は最適な手段だと思うんだ。世界を変えられるとまではいえないけど、人間として、生きているうちに他人との結びつきを実感できるのは重要なことなんじゃないかな。まったく逆に、他人に対する恐怖感だけを一方的に植え付けて、人々がそんな感覚を持つことを妨げようとする奴らもいるけど、そんなのは言語道断さ」。
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