インタビュー

CYMBALS(3)

地面を歩く感じにしたかった

 演奏や構築の雑さというものとは無縁に、このアルバムにライヴリーな感触を与えているのは、ひとえに〈温度〉ということに尽きる。メンバーそれぞれの、あるいはメンバーの総体であるはずのCymbalsという〈人格〉の人となりが見えてくる感じ。つまり、演奏や楽曲に残る演者や作者の体温がこれまで以上に高いと。そして、Cymbalsの矜持ともいうべきドリーミー(悪夢も含めて、ね)な音楽性はそのままに、向上した肉体性を含めたリアリティーが、このアルバムの一貫したトーンを形作っているのだ。


「今回は、踊れたり自然と体が動いたり、そういうものにしたかった。ファースト~セカンド・アルバムは、演奏とかの感情とヴォーカルの感情が真逆で、熱い演奏に軽いヴォーカルっていうアンバランスを考えてやってたんですけど、今回は、ストレートに曲の感情を引っ張っていくという。そういう歌い方で、聴いてる人を踊らせたり歌ったりさせたいっていうのがあったんで、自分の肉体的なところを鍛えてアップさせてやってみました(ニッコリ)」(土岐麻子)。

「コンセプトではないんですけども、すごく意識したものは〈地面〉。〈地面のレコード〉を作りたいな、とは思ってて。要は、空を飛ぶ夢を見るとかっていう〈妄想〉ではなく、地面を歩く感じにしたかったってことなんですけど。それは、オーディエンスとこのレコードを共有したいから。〈共有〉ってのがすごい大きなもので。いま、ネットでレコーディングのドキュメントをやってるのもそれなんです。なんでそれをやりたいと思ったかっていうと、作品が未完成のまま世に出るっていうのが作家としてどうか?というのもホントはありつつも、そういうところも含めて見てほしかったし、僕らが思ってるのと同じような感じでこのアルバムを聴いてほしかった。それがやりたかったんですよね」(沖井)。

 ある意味、これほどまでにCymbalsらしいCymbalsのアルバムはなかったのではないだろうか? コンセプトの消滅、戦争がすぐそこにある日常(TVつけりゃいとも簡単)を反映したような時事性、生活のひとコマを切り取ったジャケット・フォト(土岐の笑顔といったら!!)など、これまでのCymbals観を更新させるようなポイントはいくつかあるものの、結局のところ、CymbalsをCymbalsたらしめているものはそういう些末(でもないんだけどさ)なところではなかった、ということだ。メンバー自身も内面に斬り込まざるを得ない瞬間があったことを想像させるような『Love You』ではあっても、さり気なく気分を変えてくれるようなポップスのミラクルと、軽く笑い飛ばせるようなユーモアが貫かれているのだから。


「そこで結成当時の話に戻るんですけど、〈気楽に楽しく〉っていうのが大事なんですよ。僕らがCymbalsに求めてる要素はそこですから(ニッコリ)」(沖井)。

 最後にひとつ。このレコードで、音圧やスピードやスリル、あるいは知識量やテクニックだけでは計ることのできないポップ・ミュージックの可能性や魅力にひとりでも多くのティーンエイジャーが気付いてくれたらな、と。そんな10代が10年後に作るレコードを聴けたら、僕も、もちろんこの『Love You』も、本望だ。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2003年06月05日 13:00

更新: 2003年06月05日 18:47

ソース: 『bounce』 243号(2003/5/25)

文/フミ・ヤマウチ

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