インタビュー

男のロッカーにとって〈30代ド真ん中〉とはどんな意味を持つのか!?

 66年生まれのアベフトシ、68年生まれのウエノコウジ、チバユウスケ、69年生まれのクハラカズユキ――男のロッカーにとって〈30代ド真ん中〉とは、どんな意味を持つのか……という話で、まず断っておきたいことがある。ミュージシャンにとってそれぞれの年齢の意味するものは、時代、場所、状況、環境によってまったく異なるものがある。たとえば、YMOが大ブレイクした80年ごろに、当時33歳の細野晴臣を見ていて、なんだかとんでもなく歳をくってるなあ……という印象を筆者(当時18歳)は持った覚えがあるのだが、最近になってDVDなどであの当時の映像を改めて見直すと、細野さんの若いこと! まだ子供みたいに見えたりもするのだ。もちろん、見ていた側の年齢の変化はあるだろうが、ロック・ミュージシャンの年齢に対する意識(本人にとってもリスナーにとっても)は、ここ20年間で確実に変わっている。かつては〈特別〉とも思えた30~40代のロッカーも、いまではあたりまえのように見受けられる。平均寿命が延びて〈人生50年〉と言われていた時代と現在とが違うように、妙な表現だが、〈ロッカーの平均寿命〉が延びているいま、そして、これからさらに〈30代のロッカー〉の意味は変質していくことだろう。

 さて、年齢=相対的なもの、という真理を改めて確認したあとで、ここで例として挙げる〈ロッカー、30代ド真ん中の作品〉のいくつかをざっとご覧いただきたい。ローリング・ストーンズが旬な音楽への果敢なアプローチを見せていたアルバム『Black And Blue』『Some Girls』『Emotional Rescue』を発表したころ、ミック・ジャガー、キース・リチャーズ共に30代半ば。音像効果にこだわって特殊なレコーディング方法を用いた『Street Hustle』はルー・リード、36歳のとき。ピート・タウンゼント(33歳)のアイデアが収まりきれず、結果的にバンド史上で異彩を放つ作品となったザ・フー『Who Are You』。デビュー当時の神秘性を(意図して)取り戻したデヴィッド・ボウイ(33歳)の『Scary Monsters』、〈30代〉なりの艶はもちろんのこと、生前最後の輝きも収められたボブ・マーリーの35歳作『Uprising』。民族音楽的な雰囲気を漂わせる『Zombie Birdhouse』はイギー・ポップ、35歳の作品。リー・ブリローが33歳のときに発表したドクター・フィールグッド『Mad Man Blues』は、ブルース・スタンダードをカヴァーしたアルバム。初のサントラ『Walker』を手掛けたときのジョー・ストラマーは35歳。エルヴィス・プレスリー、ジョン・レノンがそれぞれ『Back In Memphis』『Rock'n'Roll』というルーツ回帰を図ったアルバムを発表したのは34歳のとき。ソフト路線を完熟させた『YOKOHAMA二十才まえ』発表のとき、YAZAWAは35歳……こうして並べてみると、前に書いたように〈相対的〉と片付けては惜しいような、ある種の共通した〈味〉というか〈匂い〉のようなものを感じることができるのだ。ビートルズを例に取るなら(異論もあるだろうが、あえて)最高傑作『Sgt.Pepper's Lonely Hearts Club Band』を発表したときのメンバーの平均年齢が25歳。驚異的な若さではあるが、同時に、ちょうどみずからの能力で出来うる表現からさらに上(まだ見ぬ領域)をめざして〈背伸び〉をしたり、〈梯子〉を使ったりというアプローチに相応しい年齢、という解釈もできる。前に挙げた30代ド真ん中の諸作品は、いずれも最高傑作と呼ばれることは少ないだろうが、一度〈背伸び〉したカカトを地につけ、〈梯子〉を外してみて……という〈素〉の見える時期のそのアーティストが好きだったりするならば、いちばん思い入れを持ちたくなるような、そんな共通したムードが感じられるのだ。これまた真理。

 と、男30代ド真ん中のロッカーにまつわるふたつの真理についての話の最後に、すべての意味を無にするように、70歳のジェイムズ・ブラウンの顔を思い出してみたりして。

▼文中で紹介した作品を紹介。


イギー・ポップの82年作『Zombie Birdhouse』(IRS)


ジョー・ストラマーが手掛けた87年のサントラ『Walker』(Virgin)


矢沢永吉の85年作『YOKOHAMA二十才まえ』(ワーナー)

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2003年06月26日 17:00

更新: 2009年07月23日 23:34

ソース: 『bounce』 244号(2003/6/25)

文/安田 謙一

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