AI
「もしも誰かに〈あなたはシンガーとラッパーの、一体どっちなの?〉って訊かれたら、みんなにまず知ってほしいのはシンガーとしてのAI。だから、今回はシンガーに比重を置いたアルバムをめざしたんだ」。
先行シングル“THANK U”を経て、AIのニュー・アルバム『ORIGINAL A.I.』がいよいよ完成した。Def Jam Japanの〈First B-Girl〉として熱い視線を一身に受けながらも、本人が「やりたい放題やらせてもらった」と満足そうに語るだけのことはある、彼女の多角的な魅力が百花繚乱に咲き誇った内容となった。
今作を制作するにあたり、まずはトラックメイカーの人選から着手したというAI。そんな彼女が厳選したプロデューサーは、ロブ・リーフ・ティウロウをはじめ、ディープシックス、今井了介、藤本和則などの国内外の精鋭だ。とりわけ度胆を抜かれたのは、813(DJ YUTAKA、Shingo.S)が手掛けた“SUMMER TIME”。Shingo.Sとタッグを組んで以来、格段と上モノに力を注ぐようになったDJ YUTAKAが、今作では既存のイメージを覆す、とびきりカラフルでメロディアスなトラックを披露しているのだから。
「私たちが把握している〈プロデューサーの能力〉っていうのは、ほんの一部にしかすぎないし、本当の得意分野っていうのは、探れば探るほど出てくるモノだと思う。そこで、最近LAで作ってきたという……R・ケリーの“Ignition”チックなこの曲をもらったんだ。813って、本当は何でもできるんだよね。ただ、みんながリクエストをしてないだけだと思うよ」。
プロデューサーの別の面にも着目することができるのは、彼女自身もシンガーとしての、いまだ知られざる実力があるせいなのか。そして「着るモノによって自分が変わるように、トラックや歌詞の内容によって声のトーンも変わってくる」とAIが語る、歌声のヴァリエーションの豊かさといったら! 極めて秀逸、尋常ではない。なかでもアドリブや、アルトからオクターヴを駆使した唱法を特記したい。コーラスを綺麗に積み重ね上げる、というようなありふれた手法とは一線を画す方法論で、その歌声はサウンドに奥行きを持たせることに成功しているのである。
「コーラスワークに関してはちょっと自信があるんだけど、今回は主体の歌一本で勝負したアルバムが作りたかったから、コーラスは控え目にしたんだ。あと、このアルバムのポイントは歌詞! これを聴いてくれた人たちが最終的には元気になってくれたらな……って思って書いたモノばかりなんだよね」。
そう彼女が声を大にして語る歌詞には、たとえば〈幸せそうなカップル/ラヴラヴで羨ましい〉など、リアルな心情を曝け出したものが横溢しており、至極痛快。
「そんな詞を書くなんてあり得ないよね(笑)。でも、自分が思ってることを書くのが私のスタイル。メロディーや声に対して〈言ってることは……まさかこんな!〉という詞って、すごく自分らしいと思うんだ。ちなみに、その曲の元のタイトルは〈男狩り〉だったんだけど、周りに〈それはちょっと!〉って止められて“Girl's Talk”にしたんだ(笑)」。
また、詞に重きを置いたかのごとき、符割りを無視した、独創的な言葉の詰め込み方とフロウには吃驚!!
「自分がイイと思った言葉だったら、たとえ1文字多いなって思っても、ほかの言葉には変えたくないのね。本当に自分が言いたいことを言う、それが私の基本だし。自分が歌いやすいんだからイイかなって」。
そうAIは簡単に言ってのける。だがそれは、彼女に相当なスキルとセンスがあってこそ。ひとたび聴けば、夢中になること必至のオリジナリティーがここに極まれり。
PROFILE
AI
81年、LAで生まれ鹿児島で育つ。ダンスの道を志し、アリシア・キーズなどを輩出した〈LAパフォーミング・アート・スクール〉へ通う。当時、教会で出会ったゴスペルに触発され音楽の道へ。数々のオープニング・アクトやバック・ダンサーとして経験を積み、2000年“Cry Just Cry”でデビュー。2002年、シングル“最終宣告”でDef Jam Japan初の女性シンガーとして登場。また、平井堅の“Somebody's Girl”やSUITE SHICの“UH, UH...”にフィーチャーされ、シンガーとしてその確かな歌唱力に注目が集まるなか、michico、藤本和則、今井了介、DJ YUTAKAなどが参加したニュー・アルバム『ORIGINAL A.I』(Def Jam Japan)がリリースされたばかり。
カテゴリ : インタビューファイル
掲載: 2003年07月31日 13:00
更新: 2003年07月31日 18:02
ソース: 『bounce』 245号(2003/7/25)
文/金田 美穂子