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インタビュー

Apani


「私の初めてのオフィシャル・デビュー・アルバムなのよ! 生まれた時からずっと制作していたような感じがするわ。すべてが詰め込まれたアーティストのファースト・アルバムは他に2枚とないでしょ。それにいままで作りたいともがいて努力した結果なんだもの」。

 90年代初めにNYでマイクを握って以来、「音楽に恋したまま」10年以上のキャリアを積み重ねてきたフィメールMC、アパニ。これまでに、アパニB・フライ・エムシーもしくはアパニBの名前でみずからのレーベル=Q・ボロや、Nujabes率いるHYDEOUTなどからシングルをリリース。ファロア・モンチからアッティカ・ブルースまでさまざまなアーティストの楽曲や『Tag Of Times 2』といったコンピへの参加でも知られ、99年にはDJスピナ、Mrコンプレックス、シャバーム・サディークと共にポリリズム・アディクツなるユニットの一員としても活動していた彼女が、ソロとして念願久しいアルバムを完成させた。幼い頃から詩や歌、物語を書くのが好きだったという彼女にふさわしく『Story 2 Tell』というタイトルを冠されたアルバムは、「自分が誰なのか、どこからやって来たのかを探していた」10代の頃に出会い、「自分の気持ちを整理してくれた」ヒップホップへの思いが詰まった、「エモーショナルで音楽的で、楽しくもあり同時にシリアス」なもの。抑制の効いた、たおやかな印象もある作風に女性ならではの資質を感じずにはいられないが、それは彼女自身も認めるところであり、アルバムにひとつの大きな流れを作っていると言えるだろう。

「自分が女性であることが詩に反映されることからは逃れられないし、私は女性であることをエンジョイしているわ。私たち女性は男の人たちと違って、長い間女性としてのストーリーを伝えることができなかった。だから、私はそれを伝えたかったし、自分の経験と視点からそれを書いたのよ」。

 アルバムにアパニが迎えたのは彼女のライヴDJを務めるクレイジーDJバザロ、NY在住の日本人MCであるコージョー、ヒロ・スガイにはじまり、DJスピナやビートマイナーズら、有名無名を問わず彼女が家族のように慕っている面々。他の誰でもなく、彼らと共にアルバムをまとめることは彼女にとってなによりも必要なことだったと同時に、彼女なりの彼らに対するエールを示すことでもあった。

「私たちはみんな傷つき、同じものを必要としながら、何とかしてうまくやっていこうともがき苦しんでいる。それはお互いの関係であったり、自分たちのことを理解し合うことであったり……だからこのアルバムでみんなをひとつにまとめたかったし、私たちは同じなんだってことをみんなに証明したかった」。

 その一方で「人間に妬みや嫉妬の心がある限り、世界は平和にならない」とも話す彼女は、大きな意味で世界に幻滅しているのかもしれない。しかし、そこにこそ彼女が語るべき物語=〈Story To Tell〉がある。自分が持つ人間性から「降ってきた言葉や考え、アイデア」が形になった音楽として。

「人々には勇気と謙虚さ、そして教育が必要だと思うの。勇気は自分がもうこれ以上できないと思った時に助長してくれ、謙虚さは常に焦点を合わせてくれる。そして教育は、自信や誇り、ゴールを与えてくれるのよ」。

 彼女が音楽からそれらを植え付けられたように、彼女が表現する音楽もまた人々に大事なものを植え付けていく……彼女の語るストーリーの外にそんなことが用意されているとしたら、それこそがアパニという物語の本当のエンディングにふさわしい。

PROFILE

アパニ
NYのクイーンズ出身。90年代初頭からラッパーとしての活動をスタートし、ラジオ番組のプロデュースやライターも兼業しながらシーンにおける信頼を集めていく。98年に自身のレーベル=Q・ボロを設立し、シングル“Estragen”でデビュー。翌99年にはDJスピナ、Mrコンプレックス、シャバーム・サディークと共にポリリズム・アディクツを結成して『Rhythm Related』をリリース。その後も“Spot Me”“Strive”とシングル・リリースを重ねる一方で、スピナ、ファロア・モンチ、アッティカ・ブルース、リッチー・ピッチ、DJ CEROLYらの楽曲に客演するなど多方面で活躍。このたび、ファースト・アルバム『Story 2 Tell』(Q-Boro/MIC LIFE/バッドニュース)がリリースされたばかり。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2004年01月29日 12:00

更新: 2004年01月29日 18:42

ソース: 『bounce』 250号(2003/12/25)

文/一ノ木 裕之