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インタビュー

DJ Zinc

ドラムンベース~UKガラージを跨ぐ鬼才、ジンクは恐るべきブレイクビーツ暗夜行路を疾走する。もっともっと速くGO DJ! 火のないところに煙は立たないぜ!


「(アルバムのジャケットを指さして)このビルは六本木ヒルズだよ(照笑)。この前、日本に来た時に撮ったんだ」。

(照笑)……意外とシャイな人だ。95年に手掛けた“Super Sharp Shooter”の大ヒット以来、ドラムンベース・シーンの売れっ子DJ/クリエイターであり、名門トゥルー・プレイヤーズのメンバーとしても知られるジンク。彼のキャリアは、99年に転機を迎えた。EP『Beats By Design』に収録した“138 Trek”、タイトルどおり138BPMのこの曲がジャンルを跨いで大ヒットしたのだ。アシッド・ハウス界の先人、スティーヴ・ポインデクスターへの偏愛を感じる〈TB-303節全開〉のこの曲は、レイヴ・キッズだった彼のアシッド・サウンドへの憧れと、ドラムンベース屋の現役感覚がミックスされた快作だった。

「“138 Trek”の評判がよかったから〈ドラムンベース以外の曲も作れるんじゃないか?〉と思って。それで、ビンゴ・ビーツ(ジンク主宰によるUKガラージ・レーベル)を始めて、同時に趣味としてちょっと変わった曲も作るようになったんだ。ビンゴ・ビーツやトゥルー・プレイヤーズのレコードのB面に収録してもいいかな?ってね。そういう(いつも作らないような)曲を7曲作った時点で、デモをテンポ順に並べて聴いてみた。その時、今回のアルバムのアイデアがパッと浮かんだんだ。〈ゆっくりとスタートして、だんだんスピーディーになっていくアルバムがいいな〉って」。

 2年半の時間をかけ、ヴォーカルや管楽器のレコーディングにも挑戦した初めてのオリジナル・フル・アルバム『Faster』。このアルバムは、ドラムンベース・ファンに独占させておくにはもったいないビート物語だ。ダウナーなベースからスタートし、ブリストル・ダブの匂いを感じるヒップホップを経て、ビンゴ・ビーツ調のブレイクビート・ガラージで疾走し、高速ドラムンベースでフィニッシュする。ゲストとしてレプラゼントのMCダイナマイトや、ベースメント・ジャックス“Jump N' Shout”への参加でも知られるラガMC=スローター・ジョンも招かれている。

「(制作期間は)すごく長いよね。実は、機材をどうやって使っていいかわからなかったんだ(照笑)。参加したゲストのなかでは、スローター・ジョンがカッコ良かったよ。彼はレコーディングが終わった後にスタジオで、“Jump N' Shout”のスペシャルを僕のためにやってくれたんだ。スペシャルっていうのはMCの中にDJやサウンド・クラッシュの名前を入れるっていうことでね(ノートPCを起動して、音源を聴かせてくれる)。最近は、このスペシャルに違うビートを合わせて曲を作ったよ」。

『Faster』のサウンドに職業ミュージシャンの知性はないが、DJ特有の音響感覚とクラブの現場から飛び出した〈煙たさ〉がある。つまり、クールなのだ。それゆえか、彼の曲はジャンルを越えて多くのDJに愛される。そういえば、アンディ・ウェザオールも新宿リキッドルームで……。

「アンディ・ウェザオールが日本で僕の曲をプレイしていたの? ワォ! そいつはクレイジーだよ(高笑)。僕には、ふたつの目標があるんだ。まずはこのアルバムが売れてくれること。あとは、僕の曲を〈ピュアリスト〉と呼ばれるDJがかけてくれること。〈ピュアリスト〉というのは、本当に自分の好きな曲しかかけないDJのことだよ。グルーヴライダーも、ジャイルズ・ピーターソンも、ファビオも、LTJブケムもみんな僕の曲をプレイしてくれる。これ以上素晴らしいことはないよ」。

 真面目でシャイなジンク、彼の目標達成の日は近い。あとは、この記事を読んでいる〈ピュア・リスナー〉のあなたが『Faster』を耳にしてくれたら……。

▼ジンクによるリミックス・トラックが聴ける作品。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2004年02月05日 16:00

更新: 2004年02月05日 18:55

ソース: 『bounce』 250号(2003/12/25)

文/リョウ 原田