bonobos
bonobos(ボノボ)というバンドには、優しい魔力とでも形容したい魅力がある。ダブを採り入れたパノラミックな音像を持ちながら、彼らはそうした立体的なサウンドを、倦怠やグルームではなく、むしろポジティヴで拡がりのあるベクトルへと解き放っていく。
「レコーディングを重ねるたびに、バンドの肉体的なアンサンブルの重要さがよりはっきりわかってくる。それぞれの楽器の絡む関係性を整理できるようになって、それがさらに強いグルーヴとして表現できるようになってきていると思います。担当楽器のあり方や役割みたいなのがより見えてきているというのは、音にもしっかり出ていると思います」(蔡忠浩)。
ファースト・アルバム『Hover Hover』を聴いてみると、bonobosの音楽のなかに溢れる、ある種の牧歌的な詩情がベーシックなトーンとして流れていることを感じるはずだ。さらに、合宿レコーディングという制作過程や、土井章嗣の卓越したエンジニアリングが、カラフルでありながら骨太なバンドとしての一体感を、アルバムのトータリティーに定着させている。
「いままでbonobosの音楽ってどんなものかと考えたときに、頭のなかで勝手に想定して、それに近づけるようにしていた気がするんですけれど、いまは自分たちの出した音がbonobosの音だと思えるようになって。フレーズにしても演奏にしても、より説得力というか、ちゃんとわかってやっている気持ちが強くなっているんじゃないですかね」(蔡)。
“ライフ”にで聴ける陽気でダンサブルなタッチなど、『Hover Hover』には彼らのライヴ・パフォーマンスで感じられる、パワフルで開放的な一面がより色濃く映し出されているようだ。
「〈開放感〉と聞いて、僕はbonobosのサウンド特有の〈音の隙間〉のことかな?と思ったんですけれど、それはドラムやベース、パーカッションの音数を削ぎ落としたりするなかで生まれているのかなと思います。“ライフ”はむしろそういうところがあまりない曲ですよね。もっとこういうタイプの曲もやってみたいと思います」(松井泉)。
すると蔡は、「でもbonobosの曲として必要な要素ならばガンガンOKですけれど、プレイヤーのエゴはなかなか許さないですからね(笑)」とやんわり切り返し、「実際その音が鳴っていなくても、その音が聞こえるようになればいい」とまで語る。
ジェントルな印象を残すアルバムのなかでも、アルバム・タイトルとなった“Hover Hover”は、蔡が長年温めていたモチーフだったという。真夜中に消え入りそうな気持ち、それを繋ぎ止める凛とした空気を音像化したかのようなこの曲は、彼らの世界観における根無草的な一面を赤裸々なまでに描き出している。
「松井くんはダブをルーツから系統だてて認識していたり、コジロウ(佐々木康之)やなっちゃん(森本夏子)もブラジル音楽などをしっかり聴いてきている。でも、僕はあまり特定のジャンルにこだわったりしないので、逆にそれで彼らの濃い部分やバックグラウンドをいいバランスで出せるんだと思う。もちろん、音楽をやるうえでそうした背景のもとでやっていることはわかるんですけれど、ルーツ至上主義や、ルーツがないのにルーツをほかのところに形として求めるのに熱心になっている人を見ていると、ちょっと違うと思うんです。たとえ輸入モノのつまみ食いから生まれたぺらぺらなものだと言われても、日本で育ってその国の空気や文化から出てきたもので表現したい。それはそれでリアルなものだと思うし、嘘をついていないと思う。bonobosはそういうふうにあるべきだと思ってやっています」(蔡)。
織り合わされる音のダイナミズムの冒険と、おおらかな歌が生むスタンダード感。bonobosのサウンドにあるバランス感覚の向こうには、自由な音楽への楽しみ方のヒントが詰まっている、と言ってもいいかもしれない。「ルーツがなくて不安なのはしょうがない。なんとかそこと折り合っていきたいというのがテーマです」(蔡)と語る彼らの表情には迷いがなかった。
PROFILE
bonobos
2001年、蔡忠浩(ヴォーカル/ギター)のソロ・ユニットとして活動を開始。その後、佐々木康之(ギター)、森本夏子(ベース)、松井泉(パーカッション)が加わり、2003年に現在のラインナップとなる。同年、ライヴ会場で販売されたデモテープが関西のカレッジ・チャートを中心に話題となり、その後のライヴ活動でも、EGO-WRAPPIN'やThe Miceteethなどと共演、注目を集めていく。2003年5月にはミニ・アルバム『Headphone Magic』を発表、10月にリリースされたシングル“もうじき冬が来る”でメジャー・デビューを果たす。2004年1月のシングル“water”を経て、このたび待望のファースト・アルバム『Hover Hover』(Teenage Symphony/Dreamusic)を3月3日にリリースする。