こんにちは、ゲスト

ショッピングカート

インタビュー

JC CHASEZ


 イン・シンクからもう一人のメンバーがソロ・デビューするというニュースに対して、考え得る反応はいくつかある。〈グループだろうがソロだろうが、アイドルにつきあってる暇はない〉という一刀両断ケース。ジャスティン・ティンバーレイクの成功ゆえに〈こっちもおもしろいかも〉と興味を抱く好意的なケース。あるいは、同じグループから複数のスターが誕生した前例がないことから、〈ジャスティンに勝るわけがない〉と結論づける冷静なケース。つまり、JC・シャゼイ(以下、JC)の『Schizophrenic』というアルバムをめぐる環境は、決してバラ色ではない。けれど、ここはぜひ諸々の先入観を捨てて、ジャスティンと共に世界最強のボーイズ・グループのメイン・ヴォーカリストを務める27歳の歌に耳を傾けてもらえたらと思う。彼の内側で「ずっと外に出る機会を待っていた」という音楽に。

 ご承知のとおりイン・シンクは2001年末から活動を一時休止しているわけだが、当初はゆっくりと休暇を取ることに決めていたJCがソロ活動を始めるに至るまでには、以下のような経緯があった。

「7年間ノンストップで仕事をしてきたから、僕はこの貴重な休みを家族や古い友人たちと過ごしていたんだ。そんなある日、旧知のダラス・オースティンから電話があった。〈調子はどう?〉みたいなノリで、僕も暇だったからスタジオに遊びに行ってみると、彼はちょうど映画「ドラムライン」(日本では4月公開予定)のサントラを仕上げている最中だったのさ。で、最後にもう1曲分の空きがあるというから、その場で軽い気持ちでいっしょに曲を作ったんだよ」。

 それが本作にも収められている“Blowin' Me Up(With Her Love)”。このセッションを機に、ダラスやほかの友人たちの勧めでレコーディングを始めたのは、昨年1月のことだ。純粋に楽しむことを最優先したというだけにアプローチは自由そのもので、いい意味で計画性ゼロ。みずから大半のソングライティングを手掛け、「朝起きたときの気分次第で直感に任せて」曲を作ってゆき、イン・シンク時代からコンビを組んできたリップロック&アレックスG、2003年に共演済みのベースメント・ジャックス、ロックワイルダーなど、多数のプロデューサーとコラボレートを行った。

「基本的には、いっしょにいて気楽な友人たちと作ったアルバムなんだ。そのほうが正直になれるし、〈ちょっと変かな〉と思うアイデアも遠慮せずに口に出せる。グループのときと違って妥協の必要もないしね。だからすごくナチュラルでオーガニックなプロセスだったよ」。

 従って、結果はやはり〈多重人格〉を指すタイトルどおりの内容となった。下ネタのジョークに興じたり深い内省を見せたりという詞もさることながら、サウンドの多彩さは途方もない。“All Day Long I Dream About Sex”はニューウェイヴ・ディスコ、“Dear Goodbye”はライヴ・バンドを伴って歌ったR&Bバラード、“Everything You Want”ではポリスを思わせるレゲエ・トラック──といった具合に、ジャスティンが提示したクールな洗練性とは異なる、ある意味キッチュな個性を披露。従来のファンは戸惑うかもしれないが、逆に遊び心を解する大人をも楽しませる極めてユニークなポップの集大成といえよう。

「僕にとって、〈ヴァラエティー〉こそ人生を豊かにするものなんだ。だからこそ自分の仕事を愛しているんだよ。いろんな場所に旅して、毎日違うものを食べて、大勢の人に出会い、日々異なる音楽を聴いて……。それに変化することも大好きだし、そういう僕らしいアルバムと思ってもらうしかないんじゃないかな」。

 また、アルバム・リリースに先立って昨年末にアメリカでクラブ・ツアーを敢行した彼は、いまの自分を完全な新人アーティストと捉えていると言い、初心に帰っての再スタートを楽しんでいるようにも見える。

「僕は草の根的な活動の大切さをよく知っているからね。イン・シンクの結成当初も、どんなに小さな会場だろうと観に来てくれる人がいればパフォームしたし、そういう作業の積み重ねでブレイクできたんだよ。もちろんグループと同じ規模の成功は期待してないけど、積極的に人前に出て改めて自己紹介し、自分の言葉で自分の音楽を説明したいんだ。いいアルバムが出来たと思うし、誇りに感じているし、あとは聴き手のフェアな判断に委ねるだけさ」。

PROFILE

JC・シャゼイ
76年8月8日生まれ。TV番組〈Mickey Mouse Club〉でのジャスティン・ティンバーレイクとの共演がきっかけとなりイン・シンクを結成。98年のファースト・アルバム『'N Sync』から2001年のサード・アルバム『Celebrity』まで、いずれの作品もビッグ・ヒットを記録、ボーイズ・グループ・シーンを牽引する存在となる。ジャスティンに続くかたちでソロ活動を開始した彼は、2002年リリースのサントラ『Drumline』へ“Blowin' Me Up(With Her Love)”を提供、映画のヒットとも相まって大きな話題となった。2003年の先行シングル“Some Girls(Dance With Woman)”に続き、このたびソロ・デビュー・アルバム『Schizophrenic』(Jive/BMGファンハウス)がリリースされたばかり。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2004年03月25日 18:00

ソース: 『bounce』 251号(2004/2/25)

文/新谷 洋子