インタビュー

MONGOL800(2)

いまは、怒る方向とは逆の方向に行ってる

 さて、ニュー・アルバム『百々』である。「間接的に聞いたことなんで、ちゃんと調べてないんですけど……(笑)」という、ちょっとアバウトなキヨサクの説明によると、沖縄では〈永遠〉という意味で使われるらしい、このタイトル。その下に集まった全10曲の、単純に曲の良さ、あふれる詩情、攻撃性を優しさでくるんだ深いメッセージはどうだ。とくにサウンド面でのヴァリエーションは前作『MESSAGE』をはるかに凌ぐ。たとえば、ギター・ソロは曲ごとに音色が異なったり、アコースティック・ギターを導入したり、ドラムは最適の音を求めてスネアをいろいろ変えていたり……。それでいて、彼らでしかありえない粗削りでピュアなバンド・サウンドの魅力は少しも損なわれてはいないのだから、そのオリジナリティーの高さには驚く以外にないのである。

「やることは、それぞれお任せ。ギターだったら、タカシが好きな音色で。たぶん、それぞれみんな、その曲に対して自分の好きなものを出すと思うから。今回は、録りでは意外と頑張ってたよね、自分たちなりに。なんだかんだ言って、まだ3回しかレコーディングしたことないから、経験がほとんどないっていうか。でもそれなりに、いま思ってることを録りの段階でもうちょっといろいろ試してみたり、それぞれやってたと思う」(キヨサク)。

「結構、冒険した。どう出るかわかんないけど。こんな感じです」(タカシ)。

「一人だけ目立つようなことじゃなくて、スネアの音にしても何にしても、和を乱さないように。音程やら、スネアの響きとか、気にしてたから。そういうのは、何回も何回もやり直しはしたんだけど。できてるかどうかはわからないけど、わからないなりに一所懸命やったんですけどね」(サトシ)。

 そして、キヨサクの歌詞と歌。実際に手にとって聴いて、歌詞カードを見てほしいので詳しくは触れないが、ここでも『MESSAGE』からの変化・成長は明らかである。“ガジュマルの木”という曲のいちばん印象的なフレーズ――より深くより広く/優しさの根を伸ばしましょう――が象徴するように、このアルバムの基本テーマは〈優しさ〉である。これまでもキヨサクは、戦争や自然破壊などに対する反感と怒りを直接的に歌うこともあれば、そこに寄り添う身近で優しく大きな愛の力について語ることも忘れてはいなかったのだが、そのバランスがさらに〈愛〉寄りになった、とでも言えばいいか。“ドキドキ”という曲の、これも印象的なフレーズ――おもちゃの兵隊さん/武器なんか捨てて踊りましょ――が時節柄何を指しているのかは明白で、しかもまるで童話のような可愛らしささえも感じさせるという、言葉の選び方の鋭さ・深さがすべての曲にあるのである。

「いまは、怒る方向とは逆の方向に行ってると思う。それが勝ればいいから。今回は、全体的にイメージとか想像が大きいかな。いいことを想像する習慣をつけたら、そんなに気分は落ちないんじゃないかな、とか。普通のことだけど。イメージとか想像が、たぶんキーワードっぽくなってるのかな……って、出来てから思った(笑)。あとは自然な、自分に無理しないというか。いろんな曲を通して、見つけてもらったらいいかな。きっかけになってもらったら、うれしいです」(キヨサク)。

 そして、サトシが今春に大学を卒業できるかどうかの結果によっては「たぶん、ツアーの数も減ったね(笑)」(キヨサク)という全国ツアーも、4月末よりいよいよスタート。ライヴの少なさによる、こちら側のフラストレーションを一気に埋めてくれるかのように、すべての都道府県を回る大規模なものだ(P137をチェック!)。

「全部回るのを、1回はやりたかった」(タカシ)。

「楽しみなのと、キツイのかな?と。こんなにやったことないから。自分のなかでは、なにか〈3枚分〉っていう感じもあるから。いままでやってこなかったぶんを。行ったことないところで、もしかしたら、ファーストから待っててくれた人もいるかも知れないし」(キヨサク)。

 そうそう最後に、アルバム・ジャケットを凛々しく飾る〈百々〉という書道の文字にも触れておかなくちゃいけない。これは何を隠そう、大学で書の勉強をしてきたサトシの直筆によるもので、中に書かれている楽曲の題字もすべてサトシの文字である。

「先生が誉めてくれた(照笑)」(サトシ)。

「ほんと? 良かったね。どこをどう誉めてくれたの?」(キヨサク)。

「なんか、昔の何かの人の字に似てるって。難しい名前で、誰か忘れちゃったんですけど(笑)。中国の、昔の書人の書風に似てるって。これでデビューしますよ、書人デビュー(笑)」(サトシ)。

 わけもわからず持ち上げる必要もないし、かといって下げる必要もない。MONGOL-800はいつも等身大で、彼らにとって嘘のない音楽を誠実に作り続けている。その事実が『百々』にはちゃんと存在している。

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掲載: 2004年03月25日 18:00

更新: 2004年04月15日 19:23

ソース: 『bounce』 251号(2004/2/25)

文/宮本 英夫