The Jerry
タワーレコードのスタッフが監修し、昨年4月にタワーレコード限定でリリースされたコンピレーション『FIRE STARTER―北海道―』。その名のとおり北海道産のイキのいいバンドたちがギュッとパッケージされているそのCDは、リスナーの興味がダイレクトに反映される場所――CDストアから発信されたものということもあり、太陽族、THE イナズマ戦隊、BAZRA、THE LILACといった、いまや押せ押せの全国区バンドはもちろんのこと、まだ全国的に名の知れていないバンドなど、われわれの期待感を十分に煽ってくれるものが数多く収められていた。そういったコンピレーション作品のなかで、監修者がとくに入れ込んでいるバンドが飾るものであろう〈1曲目〉に堂々と収録されていたのが、ここに紹介するThe Jerryである。
「ギターを手にして、曲作りを始めたのが19歳ぐらいのときで……歌うのは好きなんですけど、こういうことを伝えたいとかっていうのはあまり考えたことはなかった。出てくるものをそのまま出す、というか。影響を受けたのは……やっぱりブランキー・ジェット・シティがいちばん強かったかな? 3人共通のものだと、ニルヴァーナやレディオヘッドとか……」(長内雄太)。
その世代(平均年齢24歳――松坂世代)であればあたりまえ、かつその選択に間違いのないロック・ヒーローたちに洗礼を受けた彼らの音楽は、そこからの教えを忠実に受け継ぐかのように、激しい感情の揺れをギターの歪みとともに放ちながらも、どこか優しい、とっつき易い、愛おしいものとして耳に届く。そんなThe Jerryが、このたび初のフル・アルバムをリリースすることになった。その名は『Peel The Peal』。轟音(Peal)のなかに見え隠れするものを、剥がして(Peel)見てほしい、という意味をもつタイトルからして、先ほど述べた印象も間違っていないどころか、それこそがこのバンドのキモなのだと確信できる。
「優しさ……それはあると思います。実は、優しい。いいバンド、自分の好きなバンドっていうのは、どこかに優しさがある。ブランキーも、ニルヴァーナも。攻撃的ななかにも優しさだったり美しさっていうのが必ずあったと思います」(長内)。
アルバムは、件のコンピや、ちょうど1年前に発表されたミニ・アルバム『rude flowers』で聴かせてくれた印象からすれば、さらに磨きのかかった内容になっており、心技体ともに充実の一途を歩んでいるであろうバンドのコンディションが見事に反映されたものとなっている。
「やってることはそんなに変わってないんですけど……」(市丸博史)。
「同じことをやっているぶん、より深くなってきてるとは思いますけどね」(辻周)。
「そんなに曲ができないんで(苦笑)。歌はどんどん出てくるんですけど、一曲を完成させるのに時間がかかる。だから、今回は結構集中して作ったし、達成感はすごくありますね」(長内)。
とはいえThe Jerryは、現段階で見事なまでに完成されているバンドだとは言い難い。がしかし、バンドたるもの(3ピースならなおさら)の基本のひとつである〈メンバー全員が良いバランスでしっかりと機能している〉という点においては、他とは一線を画す素質を感じずにはいられない。そして、ライヴでの佇まいから感じられる〈どっしり〉感は、目上のバンドたちにとって驚異ではなかろうかと思わせるほどだ。
「実際、手探りな部分もあるんですけど、だんだん掴んできたなっていうのも、すごくあって。だから、このアルバムに関しても、以前とは違うものになるっていう確信はあったんです。(めざす先は)見えてきてはいるんですよ」(長内)。
さらに磨かれ、本当の輝きを見せるのは、もう少し先かも知れない。しかし、その瞬間に至るまでずっと見届けたい気持ちにさせてくれるのが、The Jerryなのだ。そんなThe Jerryにとって、自分たちの〈誇り〉とは?という質問を最後に投げてみた。
「〈結構イイと思うよ〉って思ってやっているところじゃないですか」(辻)。
PROFILE
The Jerry
大学の音楽サークルで意気投合した長内雄太(ヴォーカル/ギター)、市丸博史(ベース)、辻周(ドラムス)の3人によって結成。地元の室蘭、札幌を中心にライヴ活動を始める。2003年3月にファースト・ミニ・アルバム『rude flowers』を発表。さらにタワーレコード限定リリースのコンピレーション『FIRE STARTER―北海道―』にも収録され、注目を集める。その後、東京、名古屋、大阪などでもライヴ活動を展開するようになり、バンドの知名度を徐々に上げていく。2004年2月にタワーレコード限定でリリースされたCD『A Passage of“P.T.P.”』が好評を得るなか、待望のファースト・フル・アルバム『Peel The Peal』(CHAMELEON)が4月7日にリリースされる。
カテゴリ : インタビューファイル
掲載: 2004年04月08日 14:00
更新: 2004年04月08日 18:00
ソース: 『bounce』 252号(2004/3/25)
文/久保田 泰平