インタビュー

Felix Da Housecat(2)

パーティーは墓場まで持っていけない

 そうやってふたたびハウスを作りはじめたフィリックスは、アフロヘッドやスリー・マッドキャット・コートシップといった多名義を使い分け、多くの作品を生み出していく。93年から97年の間になんと6枚のアルバムを作り上げ、2001年にリリースしたアルバム『Kittenz And Thee Glitz』で彼の人気は決定的なものになった。ただ、また彼にある変化が……。

「俺がハウスやらクラブ・ミュージックを作りはじめたのは14歳頃からなんだけど、ひとつのことに固執するのがバカバカしくなっていったんだ。その時自分に言い聞かせたのは、〈やったことは繰り返さないで、何かモチベーションが上がる、やったことのないことをしよう〉ということだったんだ。自分が昔好きで聴いていた音楽というのを失いたくなかったし、とにかく自分が飽きないモノを作っていきたいんだ」。

 モチベーションを上げるために、正反対だが実は「俺が何となく考えていることで、2人とも俺自身のこと」だというデヴィン・ダズルとネオン・フィーヴァーという架空のキャラクターを作り出し、その2人を中心にデイヴ・ザ・ハスラー、ヴィジョナリー、そしてガールズ・バンドのネオン・フィーヴァーといったキャラクター(実在の人物)が絡むコンセプトも作り上げた。そして、初めての試みとしてライヴ・ミュージシャンを招き、またDFAのジェイムズ・マーフィーやケイト・ワックスらをシンガーとして招いて、意欲的に歌モノの曲も作り上げている。若い頃にはシングル曲を1時間で作っていたというフィリックスが、各アーティストのスケジュール調整などを含めて足掛け2年を費やして生み出したのが今回のアルバムなのだ。それは、彼がいままでやってきたクラブ・ミュージックの範疇には収まりきらないような内容で、自身の過去と未来を繋いだかのような作品でもある。

「俺の哲学とでもいうか、アルバム全体のコンセプトは、名声やパーティーといったさまざまな世界がこの世に存在するけど、結局のところそれらは墓場まで持っていけるものではない、っていうことさ」。

 現在のフィリックスはマドンナやブリトニー・スピアーズらのリミックスも手掛ける売れっ子で、グラミー賞にまでノミネートされる大物リミキサーであり、一方では10年前に始めたDJとしても、〈DJ Of The Year〉と称されるほど活躍している。そんな彼は現在、ネリー・フーパーの紹介で、とあるヒップホップ界の大物と1年ぐらいかけて仕事をしている最中だという。

「P・ディディとの曲は素晴しい出来栄えだ。ここまで頑張った甲斐があるよ(笑)。俺は誰かと仕事をする時はその人のパーソナリティーを音楽を通じて引き出したいけれど、ディディの場合は難しいテストであると同時に、挑戦しがいがある感じ。いまのところ上手くいっているけど、タフな作業で頭がイカれそうだよ。でも彼はクールだし、演じているわけじゃなくてTVなどで見たまんまの人だね」。

 フィリックスの名前がより大きな舞台で響き渡る日も近そうだ。

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掲載: 2004年04月28日 18:00

更新: 2004年05月13日 15:09

ソース: 『bounce』 253号(2004/4/25)

文/池田 義昭