インタビュー

渚にて

スーッと空気に溶け込んでいくような……豊潤なメロディーを奏でるふたりの新作!


 これは、とても豊かな音。何度聴いても耳が疲れることのない、とても暖かい音。それは、意識的にアナログ・レコーディングにこだわった技術的な部分もあるけれど、それ以上に、空の向こうに突き抜けていくような爽快感がアルバム全体に漲っている。これまで、彼らの音に存在していた得も言えぬ緊張感、もちろんそれも大好物だし、そんな霞の向こうを想像するのが楽しかったのも事実。ただ、晴れ上がった春の日、これまで見えなかった山の稜線がくっきりと目に映るような、そんな気持ち良さ。

「総集編的な前作『こんな感じ』が、別の意味でのファースト・アルバムって気持ちがありますね。で、その次にどうステップアップするかを考えた結果、今回のデラックス・ヴァージョンが生まれました」(柴山伸二)。

「軽やかさがあると思いますね。前は、気持ち的に〈やるぞ!〉っていうか、少し力んで。それはいいんですけれど、今回の録音までに楽しいことがいっぱいあって、録音自体も楽しんでできたんで。余裕があるというか、楽しもうという気持ちが増えた感じ」(竹田雅子)。

 思わず口ずさんでしまう耳残りのいいメロディーは、本作でももちろん健在。特にタイトル曲の突き抜けっぷりの良さが、本作全体をとおしてすごく楽しいものにしてくれる。そんな名品の数々のなかに、1曲浮遊感のあるアコースティック・インストが。タイトルは“妻”(笑)。

「この曲が竹田の雰囲気だからです。100%そうじゃないんやけれど。それだけじゃ、まるでアホの子みたいやから(笑)。愉しい感じありますよね。で、タイトルも〈楽しい感じ〉でも良かったけれど(笑)」(柴山)。

 前作のタイトルにもあり、インタヴュー中もよく使われる〈~な感じ〉という言葉。非常に曖昧な表現だけれど、渚にてを評すとき、そんな曖昧な言葉こそが、的を射ているように思えるのは僕だけか?

「〈~な感じ〉でしかないと思うんです。文章で表現することはできないから。〈~な感じ〉って言い方がいちばん近いというか。無理に言うのがカッコイイと思わないし、説明し過ぎることは野暮というか」(竹田)。

「彼女は直感の人やから。竹田の世界(笑)。もちろん聴き手を意識して、ある種の客観性を持っていたりするんですが」(柴山)。

 これまでの名曲を、田中栄次を加えた現メンバーでリメイクしたアルバム『夢のサウンズ』もすでに完成させているという快調っぷり。そう、これが、今の〈渚にて〉な感じ。

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掲載: 2004年06月17日 13:00

更新: 2004年06月22日 12:26

ソース: 『bounce』 254号(2004/5/25)

文/小田 晶房