妄走族
日本のヒップホップ・シーンに風穴を空けた最強の突破者たち……妄走族の新作DAバカヤロウ!!
妄走族フォース・アルバム『進攻作戦』で革命を決行!
2004年東京ヒップホップの金字塔。
妄走族がいれば何も要らない。
98年の結成当初から常にシーンへ話題を提供し続けてきた妄走族。先立って5月にリリースされたシングル“GUERILLA”に続いて、彼らの4作目にあたる待望のニュー・アルバム『進攻作戦』がMONOHONよりリリースされた。全曲をプロデュースしたGAS CRACKERZ(DEN、ZORRO)のハンパない仕事ぶりがMC陣(565、DEN、般若、ZORRO、剣 桃太郎、KENTA5RAS、神、MASARU)のスキルの高みと相まって衝突を繰り返すさまは、まさにヒップホップがヒップホップたりえる所以がいったい何であったのかを聴く者に認識させる。日本が戦争に負けて電気を使った音楽がこの国に流布されてからおよそ60年。ヒップホップという音楽がこの国の若者に浸透したのは確かだが、形をなぞっただけの翻訳作業に流されず、ファースト・アルバム『君臨』以来、自身の解釈とセンスをもって活動を続けてきた妄走族だからこそ得られたであろう音楽的結実が、本作(だけでなく新作が出るたび毎回筆者はそう感じるのだが)でははっきり読み取れる。
一聴した感じだと過去3作品に比べて楽曲群のヴァラエティー度合い(今回はグローバルな視点で見た2004年のヒップホップのGAS CRACKERZ解釈に焦点を絞った趣だ)は希薄に感じるが、それはスキのない統合感と深みを増した彼らの表現力に依るところが大きい。11曲目“キキナ”(TWIGYをフィーチャー)での洒落たギター・イントロの後、TWIGYから般若のヴァースに引き継がれる瞬間の筆舌に尽くし難いカッコ良さは前代未聞だ。プロモ・クリップの出来もサイコーだった7曲目“東京SURVIVAL”(般若ソロ“ちょっとまって”、シングル“GUERILLA”、今回のクリップともに監督は真木蔵人)は、妄走族ならではのハーコー・エンターテイメントの真骨頂だ。そこらの輩にはマネできない現実と脚色の絶妙な配分に彼らのユーモアあるインテリジェンスと余裕を感じる。また今回の特徴でもある個々のMCのキャラを活かすスタイルとして、3曲目“雄叫び”や13曲目“怒髪天”のような完全なソロ曲は出色の出来映えだ。一家のボスである565の計り知れないパワーとエナジーが漲る“雄叫び”、またリリシストとしての神のスキルの高さを知らしめる楽曲に仕上がった“怒髪天”。この2曲に限らず本作の565と神は要チェックだ。もちろん“GUERILLA”で先陣を切るMASARUの一聴しただけで引き込まれるピースフルなラップ・スタイル、おなじみ和製トニー・モンタナ=剣 桃太郎のスモーキーで危ない味わいもバリバリ健在だ。また自身のセッション・クルー=葉隠も好調なKENTA5RASの16曲目“REMEMBER”で見せるシンガーとしての未知数の才能はどうだ? とても興味深い。どの曲、どの場面、少ないヴァースであっても個性を発揮する般若はソロ活動で培ったラッパーとしての基礎体力が俄然上がった。長渕剛の桜島コンサート出演など、今後の彼の動向からは目が離せない。GAS CRACKERZの2人もトラックメイカーとしてだけでなく、ZORROの癖のあるマネのできないフロウと、DENの持ち味であるコンシャスなスタイルで他の追従を許さない。ニュー・アルバム『進攻作戦』――これはちょっと文句のつけようのない傑作と言わずにおけない2004年の本命盤だ。
- 次の記事: 進攻の歴史を一部紹介