DUBSENSEMANIA
この雑誌を読んでいる方はレゲエという単語をもう知っているだろう。少し詳しい方はダブという単語にも馴染みがあるだろう。このジャマイカ生まれの音楽は、今では日本でも人気を得るようになった。それは、こうした音楽を古くから愛してきて、日本で育ててきた人々の努力と、音楽自身が持つ魔法のような魅力による。
DUBSENSEMANIAは、名前のとおり、〈ダブ〉にこだわったバンドだ。しかし、彼らが作ったのは、〈ダブ〉や〈レゲエ〉にことさら深い興味がなくとも、誰にでも楽しめる音楽だ。この点は強調しておきたい。だから、もし、まだ〈レゲエ〉や〈ダブ〉に興味がないという人も、ぜひこのアルバムは聴いてほしい。付け加えれば、このアルバム『appearance』は、彼らのファースト・アルバムにして、今年のベストの作品のひとつに入るだろう。楽曲はよく吟味されており、リズムはタイトで、そこに溶けるようなハーモニーが響く。しかし、エネルギーは十分。大きな音では痛快だし、控えめな音量では優しい表情を味わえる。この素晴らしい結果を生み出したのは、PJ、RAS TAKASHI、RAS KANTO、LUI、KEN、RYOTARO HARADA、そして、AKIの7人。
「もう5年このバンドをやっているんだけど、最初の1、2年はやっぱりカヴァーとかやっていた。あと、(RAS)TAKASHIがNYのワッキーズでやったやつをバンド・サウンドでやってみようよ、って2年目ぐらいからやり始めて。ギタリストがコード・パターンを作って、それにメロディーや詞を乗っけて、何日かかけて作った曲もあれば、ほんと、せーので、セッションで作った曲もある」(PJ)。
最初のきっかけは何なのだろうか?
「俺がTAKASHIと知り合いで、TAKASHIの知り合いがまた集まってという感じで、TAKASHIをキーパーソンとして始まった。そこから、それぞれが歌い、コーラスをやろう、という話になって、でも、言葉でもない、独特なメロディーラインから発する独特なメッセージがあると思うし、ハーモニーができるのはポイントかな」(PJ)。
RAS TAKASHIは、レゲエにおいてオリジナルな地位を占めているピアニカという楽器を担当している。この楽器は、レゲエの太さやダイナミックな力に乗って、繊細さや孤高の美しさを表現することができる。
「TAKASHIはピアニカだけじゃなくて、笛とかも得意なんで、今後もいろいろやっていくと思う。インスト・ヴァイブをメインに、ライヴでは、1人1曲ぐらいづつ歌う。自然に表現していきたい」(PJ)。
幅広いレゲエの魅力をこれほどまでにトータルにキャッチしたバンドは、日本ではかなり限られるはずだ。そして、それが単なる〈お決まり〉のフレーズに終わっておらず、DUBSENSEMANIAだけの音楽になっているところは、本当に稀なことだ。このデビュー・アルバムは、優れたダブ~レゲエ・バンドの最初の名刺であると同時に、日本におけるダブ~レゲエ・ミュージックのひとつの到達点である。全然難しくはない。しかし、深い。
「セッションでは〈全然噛み合わないよ〉とか〈もっと味出せよ〉とかなることもある。スパッとはこないよ。メンバーの個性もバラバラなんですよ。だけど、DUBSENSEMANIAっていうスペースになれば、それぞれがまだ出し切れてないぐらいいろいろなアイデアがあって、ヴァイブスがある。そういう場になっていると思う」(PJ)。
レゲエの知識が膨大なのはもちろん、ここでシャーデーのカヴァーをしたり、「(ファンク・バンドである)ウォーの初期が好き」(RAS TAKASHI)ということからも、彼らはレゲエに囚われずに、しかしレゲエをもっとも良質な音楽の見本として提出した。今年屈指のアルバムであり、歴史に残る傑作だろう。
PROFILE
DUBSENSEMANIA
NYの名門レゲエ・レーベル/スタジオ、ワッキーズに4年間在籍していたRAS TAKASHI(ピアニカ)が98年に帰国して結成。当初は打ち込みによるデジタル・ダブ・ユニットだったが、2000年にPJ(ドラムス)が加わってバンド・スタイルでの活動を本格化。2002年にはUKレゲエ界の大御所、デニス・ボーヴェルがミックスとダブワイズを手掛けたミニ・アルバム『DUBSENSEMANIA』をリリース。哀愁溢れるダブ・サウンドが大きな注目を集める。その後、マッド・プロフェッサーとの共演をはじめとする多くのライヴ・パフォーマンスも話題に。ふたたびデニス・ボーヴェルをミキサーに迎えて制作されたメジャー・デビュー・アルバム『appearance』(ソニー)がリリースされたばかり。