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インタビュー

Capleton

その男気溢れるマイク捌きで長年レゲエ・シーンをサヴァイヴしてきたケイプルトン。待望の新作『Reign Of Fire』は、未来と過去をしっかり見据えた傑作だ!!


 11月3日、NY。空気がビリビリと鳴りそうなぐらい緊迫した大統領選の翌日、VPのオフィスでケイプルトンに会った。マンハッタンで地下鉄に乗り込んだ時は〈ケリー、追い上げ中!?〉とのニュースが流れ、クィーンズの奥地で降りた時は〈ブッシュ再選!〉が決まっていた。ガッカリ。一応、タイムリーなこのトピックを振ってみたところ、「政治家は世の中を分断するためにしか働かないから、俺は投票しない」と一言。もちろん、彼にアメリカでの投票権はない。「ジャマイカ国内では、対立する政党両方が俺の曲をキャンペーンに使っているよ。みんなを高揚させるためだろうから構わないけど、どっちも同じ曲を使った時はさすがに妙だったな」と笑う。

 島内では国民的ヒーロー、レゲエ・ファンの間では大ヴェテランのラスタDJとして認知されているケイプルトンも、名前が売れ出した10数年前はスラックネス(下ネタ)を得意とするバッドマン系DJだった。

「あの頃はそれが主流で、人気を取るためにいちばん手っ取り早いスタイルだった。自分がどんな人間かだんだんわかってくるにつれ、リリックも変わっていった」。

 94年にラスタファリアンに方向転換。以来、アグレッシヴなオピニオン・リーダーとしてシーンを引っ張ってきた。 ニュー・アルバム『Reign Of Fire』は、2000年作『More Fire』、2002年作『Still Blazing』と続いてきたファイア・シリーズの3作目。合い言葉〈モ・ファイア〉どおり、勢いと情熱に溢れた傑作だ。〈ケイプルトン=火の玉大将〉のイメージは踏襲しつつ、曲調の色合いは一歩拡がっている。「自分自身、成熟してきたと思う。音楽的にも違うステージに入っているんだよ」と本人。歌うようにDJ(ラップ)をするシングジェイ流行りの昨今だが、“Fire Haffi Burn”ではそれをさらに進めてルチアーノばりの歌唱を聴かせる。「子供の頃は歌うほうが好きだった。教会のクワイアに属していたくらい」だそう。

「カルチュラルでコンシャスなリリックをストレートなダンスホールのリディムに乗せたのは俺が最初だ」と胸を張るように、収録曲はラスタらしいルーツ&カルチャーな曲から現場仕様のダンスホール・チューンまで網羅。「たくさんの人に喜んでもらいたいから、そのあたりのバランスは気を遣っている」と、気配り大将の一面も。また“Fire Time”では〈Mad Instruments〉、“Real Hot”では〈Red Alert〉と、ヒット・リディムを積極的に採用。流行のリディムはそれだけで身体が動くものだが、彼のリリックにはグッと耳を掴む強さがある。

「リディムとリリックが完全に溶け合いつつ、最後にメッセージが残るようにするのが大切だ。トラックをもらったら、事前に2、3パターンのアイデアを用意して、スタジオに入ってからプロデューサーと選んで仕上げることが多いね」。

 ところで、ジャマイカでいま流行っているのが、掛け声に合わせてみんながお揃いのフリをするニュー・ダンス。エレファント・マン、ビーニ・マンあたりが仕掛け人だが、ケイプルトンの“In Her Heart”からも、心臓がドキドキする様子を表したダンスが生まれた。

「ニュー・ダンス向けに作ったつもりはないのに、おもしろいよね。俺はキングストンにいても、他のアーティストみたいにダンスには行かない。やっぱり、俺を観るときに特別な感じがしないと、金を払っている人に申し訳ないだろ?」。

 やっぱり、気配り大将だ。98年頃まではヒップホップのメッカ、デフ・ジャムとも契約していた。が、「あれはあれで良かったけど、クロスオーヴァー(国際化して、ジャンルを超えること)は無理してやるもんじゃない」とあっさり。新作で絶妙のバランス感覚を発揮する彼にも、ひとつ譲れないものがある。

「自分の根っこにある文化を曲げるわけにはいかない。音楽のエネルギーのレヴェルを下げてまで、MTVやBETに出るために、自分を変えるようなことは絶対にできないんだ」。

▼ケイプルトンの作品を一部紹介


95年作『Prophecy』(African Star/Def Jam)

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2004年11月25日 17:00

更新: 2004年11月25日 18:49

ソース: 『bounce』 260号(2004/11/25)

文/池城 美菜子