インタビュー

FreeTEMPO

滑らかな手捌きで麗しきフロア・ミュージックを創造するFreeTEMPOこと半沢武志。待望の新作で描かれるのは、目も眩むほどに鮮やかな総天然色の世界!!


 仙台在住のクリエイター、半沢武志のソロ・ユニットであるFreeTempoが18か月ぶりの新作『Oriental Quaint.』をリリースする。直訳すると〈東洋人は奇妙〉、意訳では〈僕らの奇習〉となるこのタイトルは、イタリアのレーベル、イルマのコンピ『La Douce Party 5th Anniversary』に収録された“Montage”で逆輸入デビューを飾り、その後も卓越したメロディー・センスで“Sky High”をはじめとするクロスオーヴァー・ヒットをフロアとリヴィング・ルームに放ち続けた半沢ならではのもの。そこには「どこでどんな活動をしていようが、大切なのはどれだけ自分のカラーを出せるか。僕は自分にしか作れない音楽を作りたいし、その土台だけはしっかりしていたい」という、半沢の強く美しい意志が込められている。

「僕は母親がピアノの先生だったこともあって、わりと早い時期に音楽の素晴らしさに目覚めることができたんですけど、今回改めてそのルーツの大きさに気付いたんです。子供は子供なりになにか夢中になれるものを探していて、僕にはそれがたまたまピアノであり音楽だった。その頃の僕は教則本の課題を練習しながらも、好き勝手な〈オリジナル〉を弾くことも好きだった。そこにはとても自由な視点があったように思うんです。その自由な視点を、いまの僕がどれだけ思い出せるのか。それがこのアルバムのテーマでしたね。僕のアルバムのジャケットすべてに子供の写真が写っているのも、そういった視点を求めてのことだったと思うんです」。

 つまりは、年間365デイズをどうかと思うほどのハイで過ごす幼少期を卒業してしまった僕らにとっては、もはや奪回の難しいチャイルズ・ヴュー、それを取り戻すという作業。両目をいっぱいに見開いて、そこにあるものを見るよりも、いっそ目を閉じて瞼の裏にある色彩を追ったほうが、よりたくさんの風景やイメージを捕らえることができる。それこそが半沢の言う〈自由な視点〉というものだし、〈想像力の行使〉ということだし、『Oriental Quaint.』には、まさにその想像力を〈両耳から助ける〉ような楽曲が詰まっている。

「聴く人それぞれがいろんなイメージを乗せてもらえればと思いますね。音楽をまったくのゼロから作り始めるのは難しいことだと思うんですけど、僕の場合、最初の1は必ずしも音楽じゃなくてもよくて、それが1枚の絵だったりする。アルバムというフォーマットであれば、まずは全体の流れやストーリーを考えて、そのストーリーが欲しているコードやメロディーを追求していくという作り方なんです。ヴォーカリストにも、まずは自分のイメージを言葉で伝えるところから始めます。ただ、10を要求して10を返してもらうというよりは、お互いの色を混ぜ合って、気付いたら10を超えていた、みたいな表現が理想。そこは楽しみながら実験していく感じですね」。

 今作にはメイナード・プラント、ヨシダサトコといった前作『THE WORLD IS ECHOED.』に続いての参加となるヴォーカリストたちに加え、地元仙台のラジオ番組で公募したという新人、カンノナオミも参加。ひんやりとした空間処理が心地良い半沢のトラックに、新しい色を混ぜ合わせている。

「カンノさんはとにかく僕が聴いたことのない声だったんです。技術は時間や習練が育てるものだけど、その質感は天性のものだから、ぜひいっしょにやってみたかった。音楽を作るためにどうしても東京に出たいという人もいれば、僕みたいに生まれ育った環境でやりたいという人もいるんで、彼女が同じ仙台に住んでいるというのも良かったんですよね。……自己分析をするに、昔は音楽をジャンルから作り始めていたと思うんです。自分のなかに〈ボッサなトラックにはまずリム・ショットを〉みたいな固定概念があった。でも今は新しい12インチ・シングル1枚を聴くにしても、そこからなにを聴き取ってなにを残せばいいのかということが、より明確に分かってきたんです。だから僕には東京ほどの情報量は必要ないし、この環境が大切。1年後か10年後か、いつか僕が仙台を離れて活動するのであれば、やっぱりそれは新しい〈絵〉を求めてのことだと思うんですよね」。

▼FreeTEMPOの作品。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2005年01月20日 15:00

更新: 2005年01月27日 18:07

ソース: 『bounce』 261号(2004/12/25)

文/江森 丈晃