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インタビュー

Keison


 人は歳を重ねるごとに成長することができる。それは人としてのスキルアップだけを意味するわけじゃなく、絡み合った自意識を解きほぐして、もっとシンプルに人生を送ろうとすること、それもきっと成長ということなんだと思う。Keisonにとっておよそ5年ぶりの新作となる『BOTTLE』を聴いていたら、そんなことを考えてしまった。その骨太な歌声の魅力を余すことなく伝えて多くの信奉者を生んだデビュー作『Keison』、それ以降の5年間についてKeisonはこう振り返る。

「どうやって音楽をやっていこうとか……自分のスタイルがわからなくなってたけど、今はだんだんわかってきた。自分自身がどんなヤツなのか、どんな歌を歌おうか。背伸びもたまにするけど、いまある自分をちゃんと出していきたい……考えるときは考えて、あとはシンプルに。でも、前よりは考えないようになったかな」。

 昨年、Keisonは自宅録音作品『UNDER THE SKY』をライヴ会場のみで販売したり、ライヴハウスのみならず呑み屋やサーフ・ショップなどさまざまな場所で膨大な本数のライヴを行うなど、インディペンデントな活動を繰り広げてきた。それこそKeisonが言うところの〈シンプル〉ということだったのだろう。「考える前にやろうと思って」というその旅で彼自身が得たものも少なくなかったが、そんなやり方で彼は日本各地のローカル・シーンに仲間たちを増やし、気付くとその輪はかつてと異なる支持基盤を形成していた。

 この『BOTTLE』はここ最近のそんな活動の延長上のものとして制作されている。傍らにいるのは鬼才・パードン木村や、2002年にはデュオとして活動を共にしていたCaravanといった盟友たち(にしてサーフィン仲間)。

「みんなでワイワイガヤガヤやって、たまに波乗りして、みんなで同じメシを食って。ザ・バンドじゃないけど、みんなでそんなふうに音楽を作れて楽しかったですね。時間が制限された地下のスタジオでやったらみんなせかせかしちゃうし……ねぇ?」。

 レコーディングの舞台となったのは、パードン木村の自宅や静岡・御前崎のゲストルームで、そこから生まれたラフでリラックスしたムードがケタ外れにソウルフルなKeisonの歌声を心地良くコーティングしている。それは自主制作盤『UNDER THE SKY』にあって、デビュー作『Keison』にはなかったものかもしれない。

「気張らない感じで、呑んで酔う手前の……まぁ酔ってたけど(笑)」。

 また一方では、そんなムードをパードン木村が彼特有の強烈なダブ・ミックス/エレクトロニック・トリートメントによって掻き乱したり、整えたりするのだが、それによって聴いたこともないサウンドスケープが拡がることにもなった。アルバム中盤から徐々にパードン木村の色彩が強いサイケデリックな世界が展開され、出口を見失いそうになった頃にそっと用意されているのが、かのマイク眞木本人を迎えた“バラが咲いた”のカヴァー。ドロドロとしたダブ地獄にひっそりと咲く一輪の赤いバラの花、そんなイメージが浮かぶこの流れは実に見事だ。

「うん、俺も聴いててその流れに気付いたんだけど(笑)。〈どうなっちゃうんだろう?〉とか思って聴いてたんだけど、“バラが咲いた”でホッとした。パードンさんにはイメージだけ伝えてあとは任せて。しっくり来ないことはなかったし、すごくおもしろい音になった」。

「力を抜きながら、自然に力を入れる」――それが現在のKeisonのスタイル。サウンド・スタイルだけとれば〈リラクシン・ソウル・ダブ・アルバム〉とでも称したくなるこの『BOTTLE』だが、そこにはひとりの男が悩み、旅を繰り返し、そしてようやく辿り着いたシンプルな結論が鮮やかな形で花開いている。彼は少し謙遜しながら「流れに乗って、イイ感じに」という言葉を何度も発していたが、Keisonは仲間たちと作り上げたそんな〈流れ〉に乗ってどこまでも漂っていこうとしているのだ。そんな彼のライフスタイルはまったく正しいと思うのだが、どうだろう?

PROFILE

Keison
中学2年からギターを始め、放浪生活を経てLIFEを結成。同バンドではスピーチのオープニング・アクトも務める。その後ソロに転向して99年にシングル“Fine”でデビュー。翌年にはファースト・アルバム『Keison』をリリースし、そのソウルフルな歌声が話題となる。2002年にはCaravanとのデュオによる活動を開始。2003年には再度ソロに戻り、サーフ・ショップなどでの精力的なライヴ活動を展開する。昨年ライヴ会場のみで販売された自主制作作品『UNDER THE SKY』も話題となるなか、EDWINのイメージ・キャラクターに抜擢されたことでさらなる認知を獲得。このたび同社のイメージ・ソング“Sky Time”も収録されたニュー・アルバム『BOTTLE』(Tuff Beats)がリリースされたばかり。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2005年04月07日 12:00

更新: 2005年04月07日 19:58

ソース: 『bounce』 263号(2005/3/25)

文/大石 始