UNDER THE COUNTER
〈犬も歩けば棒にあたるって言うから/ 何か素敵なことが落ちてないかと/僕も歩けば/壁にあたった〉(“toricolor”)―― いわゆるギター・ロック・シーンにおいて、こんないとおしい瞬間を何気なくさらりと綴り、歌うバンドと久しぶりに出会った。たった3行のフレーズ。でもここに凝縮された希望と失望、哀しみや滑稽さはまるで僕らの人生そのものじゃないか。
「例えば哀しい歌があったとして、全部が全部哀しくて……ってことをつらつら書いているのにはグッとこないんです。それより逆に、哀しみが見えないように歌ってるんだけど、そこからちょっと滲み出ちゃう感じ。そういうのが好きなんです」(関谷謙太郎)。
普段から哀しいとか楽しいとかの感情をそのまま表現できないタチだから、と関谷はこともなげに笑うけど、これはなかなかデキソデデキナイ。一見爽やかで、その実、ヒトが持て余す孤独感や焦燥感をザクリとえぐりとる。言葉だけでなくメロディーやアレンジにも人間らしい息遣いや葛藤、哀切さと可笑しみが溢れている。
UNDER THE COUNTERはドラマーが紅一点の4ピース・バンド。都内でのライヴを中心にここ3年ほど活動してきた。その歴史はごく普通のもの。ただひとつ、彼らの鳴らす音には流星のようなほんの瞬間の〈煌めき〉が宿っているってこと以外には。
「メロディーラインを作る時に意識しているのは、わざとらしくない作り方。自然と気持ちが昂揚していく感じをめざしています。やっぱりいいバンドの根底にはいい楽曲があって、それがいい音楽ってことになると思ってるし、僕らはそこを大切にしてやってきたバンドなので」(大隅知宇)。
ファースト・アルバム『POOL OF CIDER』のリリースを契機にバンドの意識はさらなる創作意欲へと向かい、それからわずか5か月でリリースされたのが今作『WORLD AND MARBLES』である。
「やっぱり前作よりも良いモノを作ろうって気持ちがありました。衝動とかだけじゃなく、バンドのいろんな面を出せるようにしたいなって」(吉村洋平)。
「古い曲もあり、このアルバムのために書き下ろした曲もあり。ようやくこの3年の活動の集大成的な俺らの感じっていうのをドカンッと出し切った感はあります」(関谷)。
今作には瑞々しいメロディーセンスと特異な言語感覚とが活き活きと闊歩し、イマジネイティヴで色彩豊かなアンサンブルと凄みに近い存在感を放つ歌がある。自由な創意と感受性が高く振れ幅の広い楽曲は、彼らの大いなる強みだ。胸のすくような清冽で情感豊かなドラム、控えめな職人気質が窺える堅実なベース、そして鮮やかな残像を焼き付けるギター。どれをとってもなんだかとても頼もしく、〈いわゆるギター・ロック〉というようなミニマムな匂いは感じられない。
今後、UNDER THE COUNTERがどんなふうに化けていくか? フレーミング・リップスやペイヴメントが大好きだという関谷のユーモアや毒気や真理をたっぷり含んだポピュラリティーは、〈メッキ〉じゃなく紛れもなく〈ゴールド〉なポップ・ミュージックに成り得るに違いない。
「基本的にはポップなものが好きだし、ポップなものをやれるバンドだと思うんです。ただフレーミングみたいなカッコ良さ、いろんなことやっても最終的には極上のポップ・ミュージックっていうところに着地できるような、あのニヤッとしちゃうようなバンドにはなりたいなぁと」(関谷)。
まずは今作。そして、このところ放熱量やグルーヴが大増幅、「ここぞ!っていう時に誰かメンバーと目が合ったりするとテンションがグッと上がる。最近そういう瞬間がグンと増えた」(山脇祐湖)というライヴにて、その健やかな〈煌めき〉を確認してほしい。
PROFILE
UNDER THE COUNTER
関谷謙太郎(ヴォーカル/ギター)、吉村洋平(ギター/コーラス)、大隅知宇(ベース)、山脇祐湖(ドラム)から成るバンド。大学のサークルで出会った大隅と吉村が前身となるバンドを組み、関谷を引き抜いた後に山脇が加入し、2002年に結成。都内でのライヴ活動を精力的に展開しつつ、2004年末から2005年初めにかけて下北沢ハイラインレコーズ限定のCD-Rを3か月連続でリリースして注目を集める。正規音源をリリースしていないにも関わらずワンマン・ライヴをソールドアウトさせるなどの話題を作りつつ、2005年2月にアルバム『POOL OF CIDER』でデビュー。さらなる注目を集めるなか、このたびセカンド・アルバム『WORLD AND MARBLES』(NMNL)がリリースされたばかり。