インタビュー

Animal Collective

フル・メンバーで挑んだ新作『Feels』は、これまでになくポップで、メロディアスで、サイケデリックで……各メンバーの素顔が覗ける一枚に。フリー・フォーク・シーンはこのアルバムで真の〈フリー〉を手に入れる!


  ロックからテクノ、現代音楽まで、あらゆるサウンドを吸収して、不思議な果実を実らせるNYの音楽集団=アニマル・コレクティヴ。ハーモニックで柔らかな響きを前面に押し出した前作『Sung Tongs』(名作!)以来、〈フリー・フォーク〉的な括りで語られることも多くなった彼らが、ニュー・アルバム『Feels』をリリースした。これがまた前作よりも混沌の度合いを増した、トリッピンな仕上がり。作品ごとに表情を変えてきたグループとはいえ、その突然変異ぶりに驚かされるばかりだ。

「前の作品でやったことは、二度とやりたくないからね。だから、新しいアルバムに取り掛かる時は大変だよ。〈これで大丈夫かな? ヒドいことにならなきゃいいけど……〉といった感じで、すべてが挑戦なんだ」(パンダ・ベア、ヴォーカル/ドラムス:以下同)。

 前作はベアとエイヴィー・テア(ヴォーカル/ギター)の2人による制作だったが、今回はディーケン(ギター)、ジオロジスト(エレクトロニクス)も加えたフル・バンド編成。その違いも変化の要因であるとは思うが、作品ごとにメンバーの組み合わせが変わるのも彼らの特徴のひとつだ。

「いっしょにやりたいと思う時もあれば、バンドを休んで個人的にやりたいと思う時もある。そういう時には、〈バンド〉じゃなくて〈コレクティヴ(集合体)〉なスタンスのほうが精神的にラクなのさ」。

「物静かでシャイなタイプ」のベア自身は「テクノやダンス・ミュージックが大好き」で、「グループの魂」エイヴィーは「本や映画、音楽については何でも知ってる」。「グループの父親的存在」ジオロジストは「ノイズ/サイケのフリーク」で、「グループの母親的存在」ディーケンは「僕らのなかで、いちばんのボブ・ディラン好き」。そんな4人は「グループというより、色とりどりのコートみたいな存在」というわけだ。

 前作がアコースティックとエレクトロニックの幻想的なハーモニーだとしたら、本作『Feels』はシューゲイザー空間で繰り広げられるエキゾティックな儀式音楽を思わせる。ベアは「今回はギター・アルバムだってことは言えるね」と説明しているが、彼が叩き出すプリミティヴなリズムも本作の重要なカギだ。

「そうだね、パーカッションとドラムのパートはシンプルにして、簡単なキットで演奏するようにしたんだ。僕はハウスやテクノが大好きで、単純化された、瞑想的なリズムに魅力を感じるんだ」。

 渦巻くギター・ノイズとトライバルなビート、そして、一段と表現力を増したエイヴィーの歌声。まるでアルバムがひとつの生き物となって呼吸しているかのようなダイナミックなグルーヴに、ムームのクリスティーンが奏でるピアノもアクセントを添える(「ムームとは何度もツアーをいっしょに回って、すごく仲が良いんだ」)。常に変化を続ける彼らだが、サイケデリックなオーラは本作でも不変。そして、その強烈な磁場が、彼らを伝説のシンガー・ソングライター=ヴァシュティ・バニアンに引き合わせたのだろう。

「彼女とはフォー・テットのキエラン(・ヘブデン)を通じて知り合ったんだ。彼女は僕らの音楽を気に入ってくれたみたいで、共演の話が来た時は喜んで受けたよ。UKツアーの時にロンドンで彼女と落ち合って、1日1曲づつ、3日間かけてEP『Pro-spect Hummer』をレコーディングしたんだ」。

〈フリー・フォーク〉という括りは、〈サイケデリック〉という定義以上に曖昧だ。ベア自身はシンガー・ソングライター的なソロ・アルバム『Young Prayer』をリリースしつつも、幽玄なエレクトロ・ユニット=ジェーンとして『Jane』もリリース。そんな多彩な活動を展開するベア同様に、アニマル・コレクティヴのサウンドは、ヴァシュティにも通じる白昼夢のようなフォーキーさを音楽的遺伝子に組み込みながら、より開かれたアプローチでみずからを解放していく。その柔軟さこそ、〈フリー〉という言葉が相応しい。

「〈サイケデリック〉の定義については長い間考えているんだけど、まだわからないんだ。でも、ナチュラルで心地良い音楽、聴いていて頭が冴えてくるような音楽が好きだ。それに僕たちは、いままでにやり尽くされた音楽には興味ない。自分たちの音楽性や精神性を反映させた音楽を作るほうがずっと楽しいしね。そこにはない〈何か〉をめざしたいんだ」。

 そして、その最良の成果がこの『Feels』にある。
▼アニマル・コレクティヴの作品を紹介。

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掲載: 2005年11月04日 12:00

更新: 2005年11月04日 18:00

ソース: 『bounce』 270号(2005/10/25)

文/村尾 泰郎