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インタビュー

DREAM STATE(2)

確固たる王道感覚

「以前、嫌味な質問ばかりするジャーナリストから〈君たちはベン・フォールズ・ファイヴのようなピアノ・ロック・バンドになりたいのか、それともジミー・イート・ワールドみたいなエモ・バンドになりたいのか?〉って訊かれたことがあるんだけど、〈はぁ~? ふざけんな。俺たちは両方のエッセンスを採り入れて、彼ら以上のバンドになるんだよ!〉って答えてやったよ。奴は鼻で笑ってたけどね。でも、俺は本気だったんだ」。

 この発言は彼らがなにをめざしているのかを如実に物語っている。今回ついに日本リリースが決まった『Something To Believe In』で、昂揚せずにはいられないロック・ナンバーと美しいバラードのコントラストがダイナミックに描き出されたバンドのスケール感をその耳で確かめれば、彼らがエモの範疇に止まらない王道感覚も持っていることがわかるはずだ。エモと名付けられた現代のユース・カルチャーを表現するときに欠かせない煌めきやピュアネスを決して失わずに、メインストリームに食い込んでいけるポテンシャルを彼らはすでに持っている。

 それは音楽的な影響の大部分を「ダニー・エルフマン、トマス・ニューマン、ジェイムズ・ホーナー、アラン・シルヴェストリ、ジョン・ウィリアムズといった映画音楽の作曲家たちだ」と語り、「メロディーが素晴らしい」からという理由で、ビリー・ジョエルやマイケル・ジャクソンといった〈ベタ〉なアーティストの影響も臆することなく認める度量の大きさと大いに関係があるのかもしれない。

「マイケル・ジャクソンが好きだなんて、どのバンドも格好つけてあまり正直に言わないけど、アメリカに住んでたら誰だって少なからず影響を受けているはずさ(笑)。その一方で、映画音楽のメロディーの使い方やメリハリは常に俺の心を揺さぶるし、泣いたり、恐れたり、楽しんだり、いろいろなフィーリングを与えてくれる。意外だろ? いつも〈ロックな答えじゃない〉って言われるんだ(笑)。もちろん、ジミー・イート・ワールド、ウィーザー、スマッシング・パンプキンズ、サード・アイ・ブラインド、フー・ファイターズ、コールドプレイといったバンドからも影響を受けているけど、彼らからはギタリストとして影響を受けたと言ったほうが正しいと思う」。

 この王道感覚。言い換えれば、アンダーグラウンド・シーン特有の気取りやスノビズムとは対極にあるこのナチュラルな感覚こそが、いま多くの若者たちの心を鷲掴みにしているんだろう。いや、何もそれは彼らに限ったことではない。ピアノ・エモと呼ばれているバンドの多くが、そういう感覚を確かに持っている。ピアノ・エモの肝はそこにある。

「僕らの音楽が人々の人生にいろいろなカタチで触れ、辛い出来事を乗り越える手助けになったり、永遠に残る思い出を作れるようになればいいと思っているよ。誰かの人生を変えられるような曲を作りたいんだよ。俺自身が音楽で人生を変えられたみたいにさ。もし音楽で人々をハッピーにできるなら、世界がもっと良くなるように俺が変えていけるはずさ。俺たちの曲を聴いた人が、人生はポジティヴに生きていくべきだって考えになってくれたらって思っているよ。たった一度の人生なんだから、素晴らしい音楽を聴きながらエンジョイしないと。だろ?」

 そんな想いが込められたドリーム・ステイトの音楽は、ここ日本でもすでに早耳なリスナーの間で話題になっているそうだけれど、今作のリリースを機に彼らの存在は一気に大きくなるはずだ。

「日本の人たちがこのアルバムを気に入ってくれることを願っているよ。もちろん、近い将来、日本にも行きたいと思っている。でも、その前にアメリカを周らなきゃ。いまアメリカ中から〈ライヴに来てくれ〉ってメールが来ているんだ。来年早々、驚異的なスケジュールでアメリカをツアーする予定なんだ。まずは今年中にヴァンを直さないと(笑)」。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2006年01月19日 13:00

更新: 2006年01月19日 17:00

ソース: 『bounce』 272号(2005/12/25)

文/山口 智男