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インタビュー

El Presidente

待ってました、〈大統領〉!  とことんファンキーで、とことんグラマラスで、とことんセクシーで、とことん踊れる……これまでに体験したことのない〈ミラーボール・ロック〉に、僕らはもうクラクラです!!

万人のためのミュージック!

 いまのUKロック界で目立つのは至難の業だ。なにせおもしろいバンドが多すぎる。しかもその数は増えるばかりなのだから。そんな中でも強烈に自己主張して異彩を放ち、ここ日本でもリスナーの目と耳を鷲掴みにしているのが、グラスゴー出身の5人組、エル・プレジデンテである。日本盤でリリースされたばかりのファースト・アルバム『El Pres!dente』には、抗し難いグルーヴとメロディー、そして過去40年分のロックやヒップホップ、ファンクなどを網羅する驚異的な雑食感覚を詰め込んで、ありそうでなかった無二の音を完成。そのサウンドを紐解くにはまず、首謀者であるヴォーカルのダンテ・ギッツィーについて説明が必要だろう。なぜって彼はウブな駆け出しミュージシャンではないからだ。かつて彼が兄のジュリアーノと共に在籍していたガンは、97年の解散までに4枚のアルバムを発表し、キャミオ“Word Up”のカヴァーなどのヒットを飛ばした当時のスコットランドを代表する王道ロック・バンド。87年にデビューした時はまだ10代だったダンテだが、そこではベースとソングライティングを担当し、いまやキャリアは20年を数える。ガン解散後は兄と地元でレストランを経営しながら、ふたりでコツコツ音楽作りを続けていたという。

「ある意味でバンドがもうなかったからこそ、音楽を純粋に楽しみつつ表現力を磨けたんだと思う。レコード会社の縛りやプレッシャーから解放されて、ハングリーで昂揚感に満ちた曲が続々生まれたんだ。自分でもすごく嬉しかったよ」(ダンテ:以下同)。

 そうして多くの曲を綴り、自宅でドラムマシーンやギターを使ってデモを録りためたギッツィー兄弟は数年後、試しにガン時代のマネージャーらに5曲を聴かせてみることに。ふたりが作者であることを伏せて……。

「音楽そのものを楽しんでほしかったから、余計な先入観を排除したかったんだ。最終的には僕たちが作ったことはバレたけど、その前にみんなすっかり曲に惚れ込んで、そこからすべてが動きだしたんだよ」。

 そんなわけで、エル・プレジデンテという名前がつく前にダンテの頭の中では新バンドの構想が着々と固まり、当初からジャンルレスな志向は明白だったという。

「とにかくアルバムを作るなら、曲ごとにスタイルもサウンドも変えたかった。誰もがお気に入りの曲を見つけられるようにね。〈万人のためのミュージック〉がエル・プレジデンテの理想なのさ」。

 なぜって、ダンテ自身の音楽嗜好はまさにジャンルレス。クラシックからへヴィメタルまでなんでも聴くそうで、思いつくままに好きなアーティストを挙げてもらうと、プリンス、アバ、ドクター・ドレー、ミニストリー……と確かに節操ない。それは育った環境に拠るものらしい。

「なにしろ我が家では、姉の部屋からはアース・ウィンド&ファイアが、兄の部屋からはアイアン・メイデンやAC/DCが聴こえていたから、ジャンルなど意識せずふたりの趣味をそのまま受け入れていたんだ。で、今の僕もいろんなアーティストから材料を拝借して、自分がクールだと思うサウンドを構築しているだけなんだよ」。

 とはいえ彼には最初から、自分が作っている音楽の独創性に自信があったと語る。

「ポイントはどういう配分でミックスするかってことなんだろうけど、少なくとも僕は初めて聴くサウンドだと感じた。それがオリジナリティーを測るには最適な基準だと思うよ」。

 それにダンテの場合、これまたユニークな歌詞を書くための題材にも事欠かなかった。彼いわく「神父からギャングスターまで」レストランに来るさまざまな人々を観察するだけで、次々にストーリーが思い浮かんだという。

「人間関係の勉強には絶好の場所だよ(笑)。しかも僕は、なぜかネジれた人間関係に惹かれるんだ。ティーンの頃、失恋続きだったせいかな(笑)。描写するにもそのほうがおもしろいし、だからサウンドはアップテンポなのに歌詞はそうでもなくて、結構ダークな内容が多い。それもひとつの特徴だね」。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2006年03月02日 13:00

更新: 2006年03月16日 23:19

ソース: 『bounce』 273号(2006/2/25)

文/新谷 洋子