ギターと声だけで絵を描けるシンガー・ソングライターたち
おおはた雄一の音楽を部屋で流すといつも、天井にタバコの煙で作ったみたいな音の輪っかがぽっかりと浮く。ギターの弦と喉の震えが共鳴し合い、クルクル回ってそんな輪っかを作るんやね。さて、そんなシアワセな絵を見せてくれる〈ギター画家〉たちをここでは紹介していこう。まずは『ふたつの朝』にも参加した高田漣。緩やかな曲線を描き出す彼のぺダル・スティールの音色、その魅力は多くの音楽家らに愛されている。時折披露する歌声もそのギターと同様の情感があり、大変味わい深い。ネタンダーズの塚本功が弾くギターの音色はどこか汚し塗装的な効果を備えており、いつも辺りの空気がくすんだいい色合いになる。古の映画音楽に向かい合い、黄昏色の音色を奏でていたソロ作での彼は、まるでいまは少なくなった映画館の看板画家のようだ。大阪のギター・デュオ=マニラは、ノスタルジックなスタンダード曲というキャンバス上に独特のユルい世界を作る。ギターを使って、おとぼけ気分というものを具象化させる技は見事。自分の家という思いっきりくつろげる工房で、アコギを気ままに走らせてサード・アルバムを作ったのはハナレグミ。歌声とギターの密着度が生み出す心地良いフィーリングはほぐし効果抜群で温かい。最後は御大、仲井戸麗市。彼のアコギ・プレイには〈永遠の青春〉が張り付いており、いつまでも瑞々しく響く。その音色は、鮮やかな小麦色の世界を浮かび上がらせ、聴く者の目を、耳を潤してくれる。
▼文中に登場したアーティストの作品を紹介。
仲井戸麗市の90年作『絵』(東芝EMI)
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カテゴリ : インタビューファイル
掲載: 2006年03月09日 19:00
更新: 2006年03月09日 19:50
ソース: 『bounce』 273号(2006/2/25)
文/桑原 シロー