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インタビュー

畠山美由紀

幾多のコラボレーションやライヴを重ねることで得た自信と確信・・新作『リフレクション』はその凛とした横顔を鮮やかに照らし出す等身大のポップスだ


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 漂う旅情感と尽きない森羅万象への思い・・そうしたものを彼女の歌から聴き取りながら、その〈WILD AND GENTLE〉な世界に浮かび漂うこと、実に2年半。レーベルを移籍し、心機一転を図る畠山美由紀のニュー・アルバム『リフレクション』がここに完成した。

「ここ数年、ライヴをもっと頻繁に、身近な形でやったほうがいいんじゃないかっていう流れはあったんですけど、新作に関して言えば、正直どういうものを作ればいいか、具体的なヴィジョンを決めるのに時間がかかってしまって。私は、何をするにも時間がかかるんです。例えば、料理するにもね(笑)。今回のレコーディングは歌入れも含め、とにかく納得いくまでじっくりと時間をかけてやらせてもらいました」。

〈内省〉と〈反射〉を意味するタイトルが付けられ、制作に1年の歳月をかけた本作において、彼女はみずからが〈アーティスト=畠山美由紀〉を客観視できる高みへと辿り着いた。そして、彼女の長所をよく知っているDouble Famousの青柳拓次と高木二郎、EGO-WRAPPIN'の中納良恵、ハナレグミの永積タカシやクラムボンの原田郁子、キリンジの堀込泰行、高田漣らに詞曲の提供を依頼。本人も気付いていなかった魅力を彼らに引き出してもらいながら、Natha-lie Wiseの斉藤哲也と、ジャズ界で活躍する鍵盤奏者の秋田慎治という2人のプロデューサーと密なやり取りを行い、一瞬の感情の煌めきが無数の音の瞬きへと姿を変えていった。

「この種のチャレンジって、自分の力だけではできないんですよね。例えば……私は結構声が低いし、郁子ちゃんが甘くて可愛らしい歌詞を書いてくれた“愛にメロディ”を自分がどう歌い込めば良いか何度も挑戦したり、“若葉の頃や”にしても、この曲は声のニュアンスを大事にしたかったので、マイクを何度も変えて歌ってみたり。それこそ試行錯誤して、一時は〈どうしたらいいんだろう……〉と思いました。でも、それを後から客観的に聴いてみると、〈あ、私の声はこういう側面もあったんだ! うん、納得!〉って。そういう意味では、新たな自分を発見できた感じです! 今回はいろんなタイプの曲を歌うことができて、ホントに良かったなって思いますね」。

 美しい港町として知られる、宮城は気仙沼で育まれた彼女の大らかな叙情性を、みずからがペンを握った詞とフォーク/ジャズ/カントリーを熟成発酵させたサウンドが広げている。一方でメロウ・フュージョン・タッチの先行シングル“愛にメロディ”をはじめ、シティー・ポップス的な洗練を極めた“若葉の頃や”、スペイン~ブラジル~ポルトガルの風が吹き抜ける“水彩画”、はたまた素朴なメロディーに電子音を溶け込ませた“小岩井讃歌”など、これまでとはあきらかに異なるアプローチと意匠を凝らした楽曲も収録することで、彼女を映し出す陰影や輪郭はよりクリアになっている。

「いろんな風景も感情も、光の揺らめきに例えられるなと思うんです。今回のアルバムはそのキャンヴァスにしたかった。タイトル曲に〈あなたもわたしもみんな/宇宙(そら)のリフレクション〉って一節があるんですけど、まさにこの気持ちなんです。だって、光は数えられないから……。このアルバムは〈そういうものを集めた〉作品ですね」。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2006年04月06日 14:00

更新: 2006年04月06日 21:39

ソース: 『bounce』 274号(2006/3/25)

文/小野田 雄