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インタビュー

KT Tunstall


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「おもしろいことに、ライヴを行うと――特にレコードショップなどのインストアの場合――私が現れたとたんに観客の誰かが(“Black Horse And The Cherry Tree”のイントロを)〈ウーウー〉って叫び出すし、ライヴが始まって曲を演奏しはじめると、私が実際に歌い出す前に誰かが先走って叫ぶから、曲が終わるまでずっと先を越されてしまうのよ(笑)」。

 4曲ものシングル・ヒットを生み出したファースト・アルバム『Eye To The Telescope』を引っ提げ、イギリスでは昨年から大ブレイク、いまやその勢いがアメリカへと飛び火しているケイティー・タンストール。ブルージーで個性的な歌声も魅力だが、彼女の独特なギター・プレイも忘れてはならない。ペダルを踏んで、自分のギターを叩く音をループさせながら歌うのだ。海外ならジョン・ブライオンなど、日本だと向井秀徳(ZAZEN BOYS)のソロなどでも目にするが、女性では珍しい。しかもペダルをリズム・ボックス的に使用するのは。

「ペダルに繋いだ時にギターを叩いたら、ドラム・ビートが生まれたの。それを初めて発見したときは〈ワォー!〉って感動しちゃった。声やギター・リフをループさせているのは聴いたことがあるけど、ギターを叩いている人なんて見たことない。これはまったく新しい試みだから、誰も聴いたことがないはずよ。ペダルのエキサイティングなところは、まったくガイド的な機能がないこと。テンポを知らせてくれるライトが点滅するわけでもないから、本当にタイミングを合わせないと音が完全に狂ってしまうのよ。ペダルを利用することによって、アルバムを制作した時と同じような感じに曲の良さを十分に発揮させてパフォーマンスできるようになったわ」。

 冒頭の発言もそうだが、リスナーがケイティーのパフォーマンスに沸くのは、こんなワクワク感が彼女の音楽から常に溢れてくるからだろう。そのクールさは、日本でのデビュー・シングルになった“Suddenly I See”からも伝わってくる。

「これはパティ・スミス『Horses』のジャケット写真にインスパイアされて作った曲。あのジャケットは私に物凄いインパクトを与えて、大きくなったら私はこんな女性になりたいと誓ったの。この曲のメロディーは本当に気に入っている。おもしろいエピソードとしては、スペインの打楽器=カホンを使っていて、アコースティックなテイストを足したのよ」。

 そう、ユニークなレコーディング・スタイルも忘れてはならない。プロデューサーのスティーヴ・オズボーン(ニュー・オーダーやハッピー・マンデーズ、スウェード、U2など)はいち早くケイティーの才能に目を付け、しかもアルバムを作るうえで〈簡素であること〉を重視し、音楽に必要とされる要素を最小限に抑えてレコーディングしていたという。

「スティーヴは素晴らしいわ。“Miniature Disasters”を録る時、〈自分ひとりで演奏するときはノリノリで最高の気分なんだけど、バンドといっしょに演奏するとあたりまえなスタイルでつまらなくなるし、音が変わっちゃうの〉と相談したら、彼は〈バンドを使うんだったら最小限に抑えろ。君とドラマーだけで十分だ〉と言ってくれた。そこでギターとドラムだけで好きなように大音量で演奏して音を立たせた後、最終的な判断時にキーボードなどの音を加えるようにしてみた。そして、その手法がアルバム制作のスタイルを決める決定的なものになったわ」。

 文中に出てきた3曲以外にも、“Another Place To Fall”“Heal Over”といった柔らかい響きを持った曲もあるし、その多彩さには驚かされる。好きなアーティストには「最初に声から惹かれる」と言い、ニーナ・シモン、エラ・フィッツジェラルド、キャンディ・ステイトン、ジャニス・ジョプリン、ジェフ・バックリー、トム・ウェイツ、ハウリン・ウルフ、ジョン・リー・フッカーと幅広いが、ケイティー自身の声もとても素敵だ。そして、ユニークな音楽性を持った『Eye To The Telescope』を聴けば、彼女が大絶賛されている理由はすぐにわかると思う。

PROFILE

ケイティー・タンストール
スコットランドはセント・アンドリュース出身のシンガー・ソングライター。幼い頃から音楽に興味を抱き、ピアノやフルートといった楽器を習得。10代半ばになるとみずから曲を書きはじめ、16歳でギター演奏も開始している。高校時代のアメリカ留学中に初のバンドを結成。帰国後も音楽活動を継続するなかでリレントレスと契約し、2004年10月に『False Alarm EP』でデビュー。2005年1月にリリースしたファースト・アルバム『Eye To The Telescope』(Relentless/Virgin/東芝EMI)が全英アルバム・チャートで4位まで上昇し、翌2006年のブリット・アワーズにて最優秀女性ソロ・アーティスト部門を受賞する。4月12日に同アルバムの日本盤をリリースする予定。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2006年04月13日 00:00

更新: 2006年04月13日 19:31

ソース: 『bounce』 274号(2006/3/25)

文/伊藤 なつみ