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インタビュー

The Streets

事実は創作よりも奇なり──数々のトラブルをくぐり抜けた英国屈指のリリシストが新作で表現した〈リアル〉とは?


 かつてはレッドマンやアイス・キューブのようなヒップホップ・アクトに憧れ、その真似事をしてみたが誰にも相手にされなかった、というバーミンガム出身の白人MC/トラックメイカー。だがそれは昔の話で、いまや英国の音楽ファンは彼のやることなすことに無関心ではいられない、といったところだろう。例えばアークティック・モンキーズのようなロック界のホープは彼のリリックからの影響を露わにし、一方でゴシップ紙が彼のギャンブル癖や奇行を報じる。UKガラージ・シーンから登場し、過去2枚のアルバムで中産階級のボンクラな日常(レンタルDVD屋の返却日にダッシュして身体がイカレたり、パブで意中の女子の悩みを聞いたりといった日常だ)を巧みに語り、ミリオン・セールスを記録したストリーツことマイク・スキナー。彼はいまや英国の音楽産業におけるスターの一員なのだ。このような環境の変化を体験した彼が、3枚目のアルバム『The Hardest Way To Make An Easy Living』を完成させた。ジャケット写真にロールスロイス・シルバーシャドウが写りこんだこの新作、いまの彼が置かれている状況を的確に認識し、その世界をエンターテイメント化したものといえそうだ。

「俺が提供できる最大の娯楽は、真実を伝えることだってわかっていた。現実に比べたら、俺が思いつくフィクションなんてとんでもなく平凡なものだよ。クレイジーなものをでっち上げようだなんて思わない。そうしたって、誰も信じないだろうからね。このアルバムのヤバいところは、大勢の人が耳にしたくないと思っている現実を表現しているってことだ。例えばみんなは〈カネなんて重要じゃない〉と思いたがっている。俺も物質主義的でないのは確かだよ。カネがなかった頃は音楽だけ作っていれば幸せだったしね。でも、大金が手元にあったら、すぐにラップトップを閉めて、車でも買おうかな~ってことになるんだ」。

 ファースト・アルバム『Original Pirate Material』でUKガラージ~グライムの魅力をさまざまな角度より表現し、セカンド・アルバム『A Grand Don't Come For Free』ではパンク・ロックそのものをトラックに敷いた“Fits But You Know It”でそのイメージを覆してみせたストリーツ。新作においてそのサウンドはより多角化している。先行シングル曲となった“When You Wasn't Famous”ではダンスホール調のトラックに乗せてシェリル・トゥイーディ(人気アイドル・グループ、ガールズ・アラウドのメンバー)とのドラッグ・スキャンダルの顛末について語り、“Never Went To Church”では聖歌隊のコーラスに〈2度と教会には行きません〉と歌わせて不信心な自身を表現する。ときに彼の原点であるヒップホップ・マナーも織り交ぜながら。

「俺が自分のアルバムでスキャンダルを歌っているほうが、新聞で間違ったふうに書かれるよりも全然マシなことだよ。実際に起こった最悪のことすべてをアルバムに収録しておけば、奴らはそれを繰り返して言うしかないからね」。

 日本では彼の中毒性がなかなか浸透してこなかったが、独自のスカスカなビートメイクを発展させ、スキャンダラスな自身を語った新作を契機に〈ストリーツの動きに無関心ではいられない〉というファンも今後増えてくるはずだ。
▼ストリーツのアルバム。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2006年04月27日 21:00

ソース: 『bounce』 275号(2006/4/25)

文/リョウ 原田