インタビュー

Busta Rhymes

まさにビッグ・バン級の大事件! ヒップホップ史上最強の個性がドクター・ドレーと手を結んだ! またも歴史は更新されるのか!?


「『The Big Bang』のコンセプト? 俺がストリートをビッグにバン(打ちのめす)するってことさ(笑)。俺やドクター・ドレーのように才能を持った人間がいっしょにスタジオに入れば、皆の予想を遙かに超える音楽が作れるんだ。別の見地から言うと、〈ビッグ・バン〉という巨大な爆発があって宇宙が誕生したわけだよな。それは、まったく新しい始まりだってことさ。いまの俺は新しいモノに囲まれてる。だから、そんな状況を表す言葉として最適だと思ったんだ。子供と行った科学博物館で、宇宙についての映画を観て思いついたんだよね」。

 新作のたびに新鮮なモードを届けてくれるヒップホップ・アーティストといえばミッシー・エリオットやリュダクリスなどが思い浮かぶが、その先達はどう考えてもこのバスタ・ライムズだ。リーダーズ・オブ・ニュー・スクールでデビューしてから走り続けてきた彼の新作『The Big Bang』は、初めて4年近いインターヴァルを置いての登場となった。ドレーが率いるアフターマスからの第1弾という重みはわかるが、なぜここまで時間をかけたのだろう?

「ある時、LLクールJと電話で話してたら、ヤツが〈これからは新しい方法で物事に取り組まないとダメな時代だ〉って言ったんだ。確かに俺は毎年アルバムを出してきた。でも、リーグで1位のチームと契約して、レーベルもスタッフも家も車も新しくなったから、アルバムを出すならサウンドもルックスもフィーリングもすべて一新したくなった。自分の能力を出し切って、最新のサウンドを提供したかったんだよ。だから作業を急がせたくなかった。ドレーには高いスタンダードがあって、制作プロセスでは細部にまでこだわったし、精密に曲を作り上げた。彼が自分の名前を出すなら、完全に満足のいく曲じゃなきゃいけないのさ」。 

 そんな粘り強いスタジオ・ワークも、現在ストリート・シングルとなった“Touch It”の大ヒットで報われたに違いない。「受話器ごしにビートを聴いた瞬間、頭がおかしくなりそうになったね(笑)」と興奮するスウィズ・ビーツ製のプリミティヴな808ビートに乗せて、新しいスタイルのフロウを披露するバスタがとにかくヤバイのだ。

 「“Touch It”が凄いのは、そこにビートとライムしかないってことだ。いろんなサンプルや音楽的に凝った要素があるわけじゃない。あんなにシンプルだけど、間違いのない最高のパーティー・ソングになると思ったね」。

 が、その“Touch It”のプロモ・クリップ撮影時に起こった発砲事件で、バスタはボディガードにして友人のイズマエル“イズ”ラミレスを亡くすこととなった。

「イズが殺されて最低の気持ちになった。俺たちは男として真っ当に家族を養おうとしてるだけだ。真っ当な仕事をしてるヤツがその最中に殺されるなんて許されない。ストリートから逃げ出したのに、フッドのクソみたいな生き方を音楽業界に持ち込むのは間違ってるよ。皆と仲良くしたほうが、ヒップホップ・ゲームでもっと楽しく仕事ができる。それが俺のスタンスさ」。

 これは近い関係になったGユニットの連中に対して釘を刺す発言とも取れるだろうが、このポジティヴィティーこそが、バスタを誰からも愛される存在たらしめてきたのだ。そんな彼らしくゲストやプロデューサー陣も全方位的かつ華やかだ。本稿執筆時点で最終的なアルバムの内容は未定なのだが、ドレーやエミネムをはじめ、ニュー・シングル“I Love My Bitch”を手掛けたウィル・アイ・アム、(50セントと対立中の)ナズ、スティーヴィー・ワンダー(!)、マライア・キャリー、ノトーリアスBIG(の未発表共演曲!)といった幅広い顔ぶれが並ぶ予定。さらに注目すべきは、これまで何度となく組んできた故J・ディラの名前だ。

「彼とイズの死があまりにも近くて、凄く辛かった。今後の俺は何をやる時にも2人の想いを背負っていくぜ。でも、ディラは死ぬ前に、俺に165曲もビートを遺してくれたよ(笑)。彼からビートの入ったCDを貰うと、必ず30曲近く入ってて……彼の母親と話し合って、彼の才能を世界に知らせる作品のリリースも検討してるんだ」。

 あのドレッドを切り落としたことに象徴される彼の〈新しさ〉への挑戦は、苦悩や悲しみを乗り越えて、またしても結実した。「過去に俺が作ったどのアルバムよりも凄い」との言葉に偽りはないはずだ。
▼『The Big Bang』に参加したアーティストの作品を一部紹介。

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掲載: 2006年06月15日 17:00

更新: 2006年06月15日 19:02

ソース: 『bounce』 276号(2006/5/25)

文/出嶌 孝次