インタビュー

girl it's U


「一昨年ぐらいに彼女(eli)が僕の家に遊びに来て、ハードディスクとかMTRに溜めてた曲を聴いてもらったんです。そしたら彼女が〈歌おっか〉みたいになって。とりあえずネットとかでこっそりやろうかって話してたんです。で、(クルーエル代表の)瀧見(憲司)さんに〈彼女の名前を出さないようにしてやっていいかな?〉って訊いたら〈聴かせてくれよ〉って言われて。そのへんから〈じゃあレコーディングしよう〉ってなったんです」(db)。

 ラヴ・タンバリンズ解散後、約10年ぶりに再会したeliとdbこと斉藤圭市が、名盤『Alive』以来、久々に作り上げたもうひとつの〈ファースト・アルバム〉……そんな前情報にある大仰さを、この『girl it's U』はまずスルリとかわす。40分に満たないトータル・タイムのコンパクトさと、弾き語りをベースにしたかのようなシンプルでアコースティックな印象のサウンドは、一聴あまりにもさりげない佇まい。しかしそこにある曲調やアイデア、そして感情表現の幅広さとただならぬ濃度に気付いた瞬間に、本作の本当の魅力があきらかになる。

「最初の瀧見さんとの話でも〈まず歌とギターありき〉っていう認識だったし、やってくうちに曲の構成もどんどんシンプルになっていって……。〈AからB、それだけでいいんじゃないか〉みたいな。そしたらかえって曲調が広がって、自然にこんな感じになりましたね。意識もせず」(db)。

「あんまり音楽の概念とか垣根がないし、自分のなかもすごく多様なんです。だから演じてるとかいうわけでもなく〈その音楽には自分のこのイメージが合う〉っていうのがあって、それぞれの曲の表現方法が決まるんです。だから楽器といっしょですよ。ギターだって、アコギとか三味線とかエレキとかいろいろあるわけじゃないですか? 歌も同じことですよ。みんなそれをどうしても忘れちゃうけど、私、昔から〈自分は楽器だなぁ〉って思ってる」(eli)。

 小島大介(Port of Notes/AURORA/DSK)、瀧見憲司、SPIKEWAVEらをプロデューサーに迎え、堀江博久や高野勲、平見文生(元ラヴ・タンバリンズ)などが演奏に参加した本作には、2人の発言どおり〈シンプルさ〉と〈多様さ〉の理想的な関係がある。なかでも、曲ごとに喜怒哀楽をクッキリ切り替えながら、声という〈楽器〉を豊かに鳴らすeliの存在感はやはり絶大。6歳と5歳の子供をコーラスに招き、ポップでキュートな曲調のなかに複雑なニュアンスを盛り込んだ“itsy bitsy”などは、そんな彼女の表現の奥深さを象徴した一曲だ。

「昔から私、子供の歌をすごく作りたくて。アニメ・ソングとか大好きですもん。〈デビルマン〉にしても〈天才バカボン〉にしても〈タイムボカン〉にしても、エンディング・テーマが妙に哀愁あったりするでしょ? なんでそんなに哀しいんだろう?みたいな。“itsy bitsy”を3歳ぐらいの子に聴かせると超大喜びで踊ってますからね。子供だったら子供に、お年寄りにはお年寄りに合う歌があるんじゃないかなって」(eli)。

 eliが意識したというジョン・ライドン、プリンス、そしてシンディ・ローパーといったヴォーカリストたちや、dbが聴いているというジェイムス・テイラー、ウィルコなどのアーティストをとおして本作を理解するのもまた楽しい。いずれにせよ『girl it's U』を聴き込めば、本物の音楽だけが持つ凄みと説得力を強く感じるはずだ。

 最後に冒頭の話へ戻って、dbの家で聴いた〈新曲〉に対するeliの反応を記そう。それはきっとgirl it's Uが誕生した素敵な瞬間とも言える。

「〈こういう歌を歌うとイイんじゃない?〉って歌って。〈最高だね私。どの曲も私が歌うと名曲さ~〉みたいな……。冗談ですけどね(笑)。まぁ、そんな感じです」(eli)。

 あながち冗談ではない、ということが『girl it's U』を聴けばおわかりいただけると思います。

PROFILE

girl it's U
eli(ヴォーカル)、dbこと佐藤圭市(ギター)から成るユニット。91年にラヴ・タンバリンズを結成し、93年にミニ・アルバム『Cherish Our Love』でデビュー。95年にはファースト・アルバム『Alive』をリリースするが、同年に解散。その後、eliはELLIE名義でソロ活動を開始し、96年にファースト・アルバム『Bitch in Zion』を発表。以後も各地のクラブなどでライヴ活動を続ける。一方、dbは音源のリリースこそないものの、バンド活動などを通じて楽曲制作を続けていた。そんな2人が2004年に再会し、ふたたび共同で制作を開始する。2006年の元旦にはデビュー・シングル“Lonely Buffalo”を発表。このたびファースト・アルバム『girl it's U』(クルーエル)をリリースしたばかり。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2006年07月06日 23:00

更新: 2006年07月27日 14:30

ソース: 『bounce』 277号(2006/6/25)

文/内田 暁男