Koop
柔和にして緻密なサウンドと温かくもシャープな歌声──マイペースな創作の成果を携えてクープが帰ってきた。幻の島々で鳴らされるスウィングに酔いしれよう
4年前のヒット作『Waltz For Koop』はクロスオーヴァーなミュージック・シーンに〈北欧〉の存在を決定づけた作品だった。ジャズ・クインテットでピアノを弾いていたオスカーとDJのマグナスというプロデューサー・ユニットに、ゲストのシンガーたちを交えて構成されるクープ・サウンドは、ジャズに対する知識の豊かさを窺わせる洗練されたアレンジとキャッチーなメロディーが何より魅力深い。そして、シンガーたちの個性をはっきりと押し出した〈歌作り〉のポイントでは、クラブ・ミュージックの範疇を越えて、質の高いポップ・ミュージックとして世界的な評価を集めている。前作のリリースからしばらく音沙汰がなかったが、このたび新作を携えて彼らが戻ってきた。なお、質問にはすべてオスカーが答えてくれている。
「ここ数年はライヴを休んでゆっくり音楽を作る時間を持つことにしてたんだ。でも、ダンス・ミュージックに食傷気味になっていたこともあって、特には何もしてなかったんだよ。スタジオに入って他愛ないことを話したり、みんなでスタジオの模様替えをしたりね。それに、ストックホルムのレコード屋で30~50年代のジャズのレコードを数百枚は買ったよ。インスピレーションの神様が舞い戻ってくるまで、曲もまったく書かなかったんだ(笑)」。
なんともマイペースな様子だが、インディーで20万枚ものセールスを上げた前作は、いい意味でそんな彼らの状況を作り出せたのかもしれない。
「僕らのコンビネーションは相変わらずバッチリだし、2人が求めているものも同じだよ。僕らは共にクープの音楽をできるだけフレッシュなものにしたいんだ。まるで毎回がファースト・アルバムであるかのようにね!」。
ニュー・アルバムの『Koop Islands』に散りばめられた音は、基本的には前作の延長上にある音といっていい。サンプラー中心だった創作ツールはラップトップに変わっているものの、柔らかな生音の響きを活かしたクープ・サウンドの煌めきはいっそう輝きを増している。
「コンセプト自体は前と同じだけど、時代背景が違っているんだ。前作は60年代のジャズが背景にあるけど、今回は30年代から50年代のジャズがベースにある。3年くらい前から作りはじめて、最初に出来たのが“Come To Me”。この曲はとにかくポップでスウィートにしたかったんだ。でも、あくまでも枠組はスウィング・ジャズで、というふうに。この曲に半年くらいかけて、残りの曲はだいたいそれから1年弱の間に完成したかな」。
この“Come To Me”を歌うユキミ・ナガノは、北欧から飛び出してクロスオーヴァー・シーンを代表するヴォーカリストとなった逸材。今作のリード・シンガーも彼女だ。また、アール・ジンガーことロブ・ギャラガーも前作に続いて参加している。
「ミカエル・サンディンが歌う“Let's Elope”は、僕たちが10代の頃に大好きだったスミスやモリッシーの音楽にインスパイアされている。ミカエルは僕らの古い友人で、プロではないけど歌心があるから今回も参加してもらったんだ。アン・ブランは僕らの故郷アップサラにもう10年ほど住んでいる。いままでは面識もなかったけど、作品を聴いてコンタクトしたんだ。彼女の声はまるで若い頃のビリー・ホリデイのようだね」。
カリブのどこかにある島々の住民のプレイする音楽が詰まっている……そんなイメージでアルバム・タイトルが付けられたそうだ。だから、CDの端々からは鳥の声や波の音が聴こえる。ジャズとクラブ・ミュージックが見事に溶け合わされたこのクープ・サウンドのなかで。
「いや、ジャズはクラブ・ミュージックで、ふたつに違いなんてないんだ……。そういうこと自体、僕は考えないんだけどね」。
▼クープの作品を紹介。
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