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インタビュー

Ludacris

……髪切った? 誰もが認めるスキルで世界をエンターテインしてきたリュダクリスが、多面的でシリアスな野心作と共に帰ってきたぜ! 


 「スタジオに入ったとき、頭が冴えてて、聡明な人間になったことを自覚したよ。そんなこともこのアルバムで導き出したかったヴァイブの一部分なんだ。あまり知られていない俺のパーソナルな側面。アルバムもこれで5枚目になるんだけど、俺がここまで自分をあからさまにしたのは初めてじゃないかな」。

 そう語るリュダクリスが、ニュー・アルバムの『Release Therapy』で自分を曝け出したきっかけはひとつではない。『Back For The First Time』で、当時設立されたばかりのデフ・ジャム・サウスの看板として鳴り物入りのメジャー・デビューを果たしてから6年。その間に自身のレーベル=ディスタービング・ザ・ピースを立ち上げたり、映画に出演したり、父親になったりと、公私共に着実に成長してきた彼は、それと同時に、順風満帆に見えるなかでもいくつかのトラブルや困難に遭遇し、それらをクリアしてきた。

「成功の甘味もわかってるし、試練や苦難の激しい辛味も理解している。俺のプロジェクトはこの2つを天秤に乗せ、バランスが取れた状態を土台としている。最初は『Release』と『Therapy』っていうタイトルで2枚に分けようと思ってたんだ。いろいろ考えた結果、1枚のアルバムに二重の思考を盛り込むという結果に辿り着いたんだけどね」。

  これまでユーモアたっぷりの語り口や、独特のスキルフルなライム・デリヴァリーが高く評価されてきたリュダクリスだが、今回はリリック面における新たな試みも多く見られる力作となっている。例えば、“Runaway Love”では継父に虐待を受けて苦痛の日々を送るティーンネイジャーの境遇をテーマにし、“Do Your Time”では獄中生活の寂しさを美化することなく取り上げるなど、シリアスなトピックも目立つ。

「“Runaway Love”を書いている時は娘のことをずいぶん考えたよ。娘を育てることが俺の女性に対する視野を強制的に広げてくれたね。“Do Your Time”は、刑務所にポジティヴなイメージを与えてはダメだと思ってやった。数えきれないほどの黒人が囚われているし、知り合いも少しばかりいるけど、皆が有罪ってわけじゃない。この現状について考える必要があるし、解決策を探すべきなんだ。(同曲の客演に)ビーニー・シーゲル、C・マーダー、ピンプCを迎えたのは、獄中生活の厳しさを知り尽くして、実状を知っているからだ」。

 また、ロック調のギターが静かに唸る“Slap”は特に好きな曲だそうで、「誰もが人生の逆境を経験する。“Slap”を書いたわけは、ただ壁を殴りたくなったり、窓を割りたくなったり、誰かを殴りたくなったりする時が誰にだってあるからだよ。俺も含め、誰もが共感できるような曲なんだ」と続けた。

「俺にとって〈人間性〉の定義とは、多様な側面をバランス良く抱えているという意味なんだ。今回は、試練(striving)、バカバカしさ(silliness)、セックス(sex)、悲しみ(sadness)、救済(salvation)などについてラップしてる。他人のハスリングをディスしようってわけじゃないけど、多くのラッパーは人生の一側面しかライムしていないんだ。俺はもっと立体的なストーリーテラーになりたいし、それが今回のアルバムにも反映されていることを願ってるよ」。

 それが十分に反映され、またしても多くの人々の支持を獲得していることは、『Release Therapy』の全米チャート初登場1位という結果でも証明されたばかりだ。
▼『Release Therapy』に参加したアーティストの作品を一部紹介。

▼『Release Therapy』に参加したアーティストの作品を一部紹介。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2006年10月26日 21:00

更新: 2006年10月26日 21:37

ソース: 『bounce』 281号(2006/10/25)

文/高橋 荒太郎