Frank McComb
愛と自由を求めて──新しいソウルの光と道は、孤高のインディペンデント・ソウルマンが紡いでいく。来日も控えた彼の魅力的な新作を堪能しよう
〈メインストリームのシーンに迎合することなく自身のスタイルを貫き通し、70年代のソウルをいまの感性で捉え直す〉といった感じのR&Bアーティストはこれまでにもけっこういたが、その最右翼とも言えるのがこのフランク・マッコムだ。オハイオ州クリーヴランド出身のシンガー/鍵盤奏者(70年生まれ)。90年代初頭には同郷のジェラルド・リヴァート周辺で音楽ディレクターを務め、移住先のフィラデルフィアではギャンブル&ハフやジャジー・ジェフの元で活動。同時にブランフォード・マルサリスが率いるバックショット・ルフォンクにも参加した。この頃にモー・ジャズとソロ契約するもアルバムはお蔵入りし、2000年にコロムビアから発表した『Love Stories』でソロ・デビュー。2002年には英エクスパンション経由でセカンド・アルバム『The Truth Volume One』を発表するが、その後は他人のレーベルに籍を置いていない。というのも、モー・ジャズ時代の音源がブートで出回り(後に『The 1995 Bootleg』と題した公認版CD-Rとして発表)、その防止も兼ねて音源を自主管理することが重要だと悟ったからだ。そして今回日本限定でリリースされるのは、ネット流通のみだった2004年のCD-R作品の改訂盤『Straight From The Vault -Special Edition』である。
「僕はいつも自宅でレコーディングして、それを音楽の保管庫(Vault)と呼んでいる場所にストックしているんだ。その保管庫から12曲を選んで、少し手直しして(オリジナルの)『Straight From The Vault』として発表してみたら、〈Soundtracks.com〉の読者投票で年間ベスト・アルバムを獲得したんだよね。どんな環境であれ、リスナーは良い音楽を聴きたがっているんだという僕の見解が正しいことを証明できたし、US以外の国でリリースして次のステップに進むべきだと思ったんだ」。
そうして登場した今回の改訂盤では、オリジナル盤と3曲が差し替わっている。
「新しい3曲はオリジナルでインストだった曲のヴォーカル版だよ。もう少し生っぽいテイストを入れてほしいという提案もあって、ベースとかの新たな演奏を加えたんだ。ベースは(ブラクストン・ブラザーズの)ネルソン・ブラクストンが2曲弾いているけど、それ以外は僕がすべての楽器演奏とプログラミングをしている」。
内容はこれまでどおりピュアなソウル作品だが、いつも以上にジャズ的な快感指数が高くなった印象も受ける。
「そうなんだ。70年代のジョージ・デュークやジョージ・ベンソンのレコードなんかを参考にしたんだ。彼らは僕と同じで楽器を演奏して歌も歌うからさ」。
そもそも17歳の時にジャズ・トリオを結成したというフランクだけにジャズが基盤にあるのは当然なのだが、それ以上に彼の温かみのある歌声やメロウな鍵盤の音色から感じ取れるのは、ダニー・ハサウェイからの影響だ。
「もちろんダニー・ハサウェイからの影響はあるね。でも……ダニーはダニーでしかありえないよ。僕はダニーの代わりにはなれない。自分自身であることさえ難しいのに(笑)」。
そんなフランクは、昨年プリンスのステージにも立っている。
「直接電話をくれて〈いっしょにやらないか?〉って、それだけさ。もちろん〈やります!〉って答えたよ(笑)」。
今後はジョン・メイヤーと仕事をしてみたいとも話してくれたが、自身の作品としては、これまでのお蔵入り音源などを集めた『The Truth Vol. 2』が本人非公認でリリースされるのをよそに、「初のインストゥルメンタル・プロジェクトになる」という新作に取り掛かるという。そして、この12月には〈Tokyo Crossover Jazz Festival〉に合わせて来日公演も予定。殿下も認めたインディー最強男のパフォーマンスを観逃すわけにはいくまい。
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