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インタビュー

+44


 グリーン・デイが開拓した新しい世代のパンク・ロック。その裾野を広げた最大の功労者として、多くの少年少女たちに勇気と希望を与えたブリンク・182。だからこそ彼らの分裂劇はファンを大いに失望させもしたけれど、その一方で2つのステキなプレゼントを届けることになった。言うまでもなく、トム・デロング率いるエンジェルズ・アンド・エアーウェイヴスと、マーク・ホッパス&トラヴィス・バーカーが始めた新バンド=+44(プラス・フォーティー・フォー)である。

 前者はすでにデビュー・アルバム『We Don't Need To Whisper』を今年5月に発表している。そして遅ればせながら、+44もようやくファースト・アルバム『When Your Heart Stops Beating』を完成させた。

 今年2月にブリンク・182が無期限の活動休止を発表した時点でファンの間ではその存在が知られていた+44は、もともとマークとトラヴィスによるエレクトロ色の濃いプロジェクトだった。

「トムがブリンクを辞めた直後にトラヴィスの家の地下室や俺の家のダイニングで曲を書き始め、そのアイデアを発展させていったんだ」(マーク)。

 その段階ではキャロル・ヘラーという女性シンガーもサポート参加していた。しかし、マークとトラヴィスが新たに購入したスタジオで何曲かレコーディングしてみたところ、ロック志向、およびバンド志向が復活。そして、キャロルと入れ代わるようにクレイグ・フェアボーとシェーン・ギャラガーが加わって、+44は改めて4人編成のロック・バンドとして再スタートを切り、今年10月にはブリンクの出世作『Enema Of The State』のプロデュースを手掛けたジェリー・フィンと共に本格的なレコーディングを開始した。

「俺たちは何もない状態で(トムに)置き去りにされたんだ。だけど、逆にそれが良かった。だって、おかげで新しいものを作り出せたんだからね」(トラヴィス)。

「週5日、1日12時間、レコーディングに没頭したよ。トムがいないレコーディングは最初落ち着かなかったけど、ブリンクでやらなかったことをやるという意味では、それがベストだったね。もちろん、ブリンク時代にできないことがあったとは思わないけど、スタジオに入った時、俺たちはすべてを白紙に戻したんだ。俺たちにとって、これは新たな挑戦だった。個人的なことを言えば、シンガーとして、今回はあらゆることを求められたね。これまでやらなかった歌い方はもちろん、歌い方さえわからないような曲にも挑戦しなきゃいけなかったんだ。確かにハードな体験だったけど、俺たちにはそれを成し遂げる力があるってことが理解できたよ」(マーク)。

 完成したアルバムを、マークは「パンク・ロックmeets80年代のシンセ・ロック」と表現している。確かに、+44が当初打ち込み主体のサウンドを志向していたことを物語るようなエレクトロニック・サウンドが、作品全体に散りばめられている。だが、ブリンクの現時点でのラスト・アルバム『Blink-182』でも、そうした影響が反映されていたことを考えれば、それほど驚くべきことではない。むしろ歌メロを含めて、マークらしい作品だと思う。もっともブリンク特有のバカキャラはここには存在しないけれど、そのあたりもエンジェルズ・アンド・エアーウェイヴス同様、+44もまたブリンク・182の延長上にあると言えるのかもしれない。

 そう、僕らはブリンク・182の分裂劇を嘆き悲しむ前に、まず袂を分かった彼らそれぞれの現在をしっかりと受け止めるべきなのだろう。マークもこんなふうに語っている。

「ブリンク・182と+44は別物だけれど、その一方でしっかりとブリンク・182を受け継いでいるんだよ」。

PROFILE

+44
2005年に結成された4人組のパンク・バンド。活動無期停止中のブリンク・182のメンバーであるマーク・ホッパス(ヴォーカル/ベース)とトラヴィス・バーカー(ドラムス)が立ち上げたプロジェクトで、バンド名は2人が初めてこのプロジェクトについて話し合ったイギリスの国際電話の国番号に由来している。その後、トランスプランツのクレイグ・フェアボー(ギター)とナーヴァス・リターンのシェーン・ギャラガー(ギター)が加入して、現在の編成となる。2006年10月にマークとトラヴィスが共同で購入したスタジオにて、本格的なレコーディング作業を開始。このたびファースト・アルバム『When Your Heart Stops Beating』(Interscope/ユニバーサル)をリリースしたばかり。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2006年12月21日 18:00

更新: 2007年01月11日 22:54

ソース: 『bounce』 282号(2006/11/25)

文/山口 智男