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インタビュー

一十三十一

さまざまなコラボを通じて強烈なオリジナリティーを見せてきた才色兼備の実力派次世代女性シンガー・ソングライターが、第2章の幕開けに相応しい傑作を完成!!

ドライヴィング・ミュージック


写真/Sayo Nagase

 「ドライヴが大好きなんですよ。特に夜の高速道路にはスピードと変化と自由とキラキラ、私の好きな全部がある!と思ってて。動いてる感じ、流れてる感じ、それにトンネルも抜ける感じとか。景色もいろいろ変わるんだけど、(自分自身は)一定してる感じがありますよね。なので『TOICOLLE』は特に、自分の曲の中でもドライヴィング・ミュージック的なものを集めました」。

 今年の1月に16曲入りでシングル6曲のプロモ・クリップ+2曲のライヴ映像も収録のDVDを加えた〈コレクション・アルバム〉ことベスト盤『TOICOLLE』をリリースした一十三十一(ヒトミトイ)。本作を聴くと、一十三十一というシンガー・ソングライターがいかに強烈なオリジナリティーとユニークな才能を持っているのかが改めて確認できる。山下達郎や吉田美奈子、大貫妙子、荒井由実など70~80年代にジャパニーズ・ポップスの礎を築いた偉大なる先輩たちによるアーバンでメロウなシティー・ポップ~リゾート・ミュージックといった普遍的な音楽性を継承しつつ、同時に最先端のクリエイターたちと次々とコラボをして非常に実験的かつ先鋭的なサウンドを作り上げたりもする。人の心に強く訴えかける独創的なメロディーと歌詞とリズムの一体感はどの曲でも高い完成度を見せているし、アッパーなリズム・トラック上でも音数を最低限に絞ったスロウ・ナンバーでも常に一定のテンションをキープするニュートラルさを持ち、一語ずつハッキリと発音される歌唱法は独特で、ほのかな色気を醸し出す溜め息交じりで高く突き抜けるスウィートな歌声も実に個性的だ。ただ歌が異常に上手いというだけでなく、男は恋焦がれて女は共感するといった切ない恋心を鋭く描き出すソングライティング能力や、陰りのないポップでキャッチーなメロディーメイカーとしての比類なき才能も併せ持っている。もちろんキュートな容姿にも恵まれているのだ。

 そんな多面的な魅力を放ちながら活動してきた彼女は、コアな音楽フリークからクラブ・ミュージック好き、一般のポップス・ファンまでジャンルを越境した支持を集めてきたが、そのあまりにヴァラエティー豊かな全方位(360°)的音楽性や、初めてだと判読不能であろうシンメトリックな漢数字での名前、加えて実家がスープカレー・ブームの火付け役であるカレーショップ〈マジックスパイス〉という音楽以外のトピックもあって、多種多様に眩しく乱反射する彼女のイメージが一般のリスナーには掴みづらいという側面もあったかもしれない。だが、最先端のサウンドメイクとハイクォリティーなポップ性を併せ持つハイブリッドな音楽が日本のポップ・ミュージック・シーンの主流となりつつある昨今、時代はようやく一十三十一が持つフレッシュな感覚に追い付ける状況になってきたといえるだろう。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2007年04月05日 17:00

更新: 2007年04月05日 18:34

ソース: 『bounce』 285号(2007/3/25)

文/ダイサク・ジョビン