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インタビュー

一十三十一(2)

柔らかくて新しいポップスをめざしたい

 「本当に気持ち良く、勢い良く短期間で一気に書いたので、8曲でありつつも1曲な感じ……ひとつのストーリー的な、独特な〈ガールフレンド〉感っていうかムードがある」と語るニュー・コンセプト・アルバム『Girlfriend』が、ベスト盤に続いて登場した。一十三十一の第2章の幕開けとなる今作で彼女がコラボ相手として指名したのは……。

「前作の『Synchronized Si-nging』は私がいろんなアレンジャーと遊んで実験して作ったアルバムなんですけど、次はひとりの人と向き合って、シンプルで力強くて骨太なものを作りたいなと思って。なおかつ柔らかくて新しいポップスをめざしたい……そう考えたときに私はやっぱりASA-CHANGだなって思ったんです。ASA-CHANGとのレコーディングはすごく楽しいし、自分にもすごく合ってるなと思ってて。ASA-CHANGは私の書いた詞を見ながらアレンジをしていくから、新しい曲の詞を送るごとに変わっていくんですよ。それがすごくおもしろくて」。

『Synchronized Singing』で一十三十一がASA-CHANGとコラボした2曲は、聴いたこともないフレッシュでマジカルなポップ曲となっていたので、現在のポップス・シーン随一の斬新なアイデアに溢れるエキセントリックな異才同士によるアルバム全編に渡るコラボは、まさに必然だったと言えるだろう。その結果『Girlfriend』は、ASA-CHANG&巡礼の作品にも通じる、壮大で深遠で神秘的なギリギリの美しさを湛えた、聴き流すことのできない緊張感のあるドラマティックで映画的な作品となった。また、得体の知れない大きなものに対峙しつつもそこから前に突き進んでいくような繊細かつ幻想的な感覚を見事に描いたものや、恋をする女がさまざまなシチュエーションで体験する、正直でシリアスな一瞬の感情の揺れや心象風景の詳細なスケッチなど深みを増した歌詞と、希求する心の切ない想いをそのまま変換したように美しいメロディーなど、これまでに見たことのない生々しくてネイキッドな一十三十一が露わになっている。

「ASA-CHANGは、ひとつひとつの詞にすごく感動してくれてて。〈見ちゃいけない日記を見ちゃったって感じだよね〉って(笑)、そのくらい赤裸々感が出てる。『Synchronized Singing』は蛍光色のソーダ水の中で私が気持ち良く泳ぐといったイメージのすごくカラフル・ポップでコスメティックな感じで、今回はクールで赤裸々な部分を出したいなぁって思ってたから。まず私がいて、その身体に塗るオイル/クリーム的なアレンジっていう感じの密着度だからリアリティーがある」。

 というように、ASA-CHANGお得意のストリングスとエレクトロニクス+ヘンなノイズによって過剰にドラマティックにすることで逆に不思議な静けさを演出するといった曲から、スティールパンにチープなラッパたち(ホーンのことね)や名も知れぬオモチャ楽器みたいな音が自由に遊びまくって楽しすぎる曲まで、グッと異次元へと連れていってくれるイマジネイティヴで研ぎ澄まされた言葉の数々も相まって、どの曲も醸し出す世界観が非常に濃厚な『Girlfriend』。でもド真ん中にあるのは、天然のヒーリング~リラックス効果があるというか、心地良く瞑想に導かれる歌声そのもの。その唯一無二の艶かしい一十三十一の歌声が今作でもやっぱり最高なのだ。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2007年04月05日 17:00

更新: 2007年04月05日 18:34

ソース: 『bounce』 285号(2007/3/25)

文/ダイサク・ジョビン