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インタビュー

akiko × HENRI SALVADOR(2)

HENRI SALVADOR ⇔フランスが世界に誇る最高峰のエンターテイナーが、ブラジルが世界に誇る最高峰のミュージシャンたちと作り上げた極上盤『Reverence』に世界中が酔いしれる!


 生まれは1917年。つまり、今年90歳。なのに、この色艶。ほとんど奇跡というか化け物である。フランスが世界に誇るエンターテイナー、アンリ・サルヴァドールの新作『Reverence(レヴェランス~音楽よ、ありがとう!)』を聴いて、この男の才能に改めて驚き、惚れ直している。

 第二次大戦前からプロのギタリスト/シンガー・ソングライターとして活動を開始し、60~70年代には奇抜な格好やスチャラカなコミック・ソングを得意とする〈フランスの植木等〉としてお茶の間でも人気者となったアンリも、80~90年代には活動ペースを落とし、半ば隠居同然の状態が続いていた。

 突然の復活と、いまに至る人気再沸騰を決定付けたのは、2000年に発表された『Chambre A-vec Vue(サルバドールからの手紙)』の成功だった。当時注目を集めつつあったシンガー・ソングライターのケレン・アン(彼女も新作『Keren Ann』を出したばかり)が“Jardin D'hiver(こもれびの庭に)”という曲をアンリに捧げたことがきっかけとなって制作され、ケレン・アン&バンジャマン・ビオレーの黄金コンビによる書き下ろし曲も多数収録されたこのボサノヴァ色濃厚な傑作は、これまでになんと200万枚以上のセールスを記録。彼はその後も、『Performance!』『Ma Chere Et Tendre(愛しい君との愛しい時間)』と秀作を連発。そして3年ぶりに登場したのが、今回の新作というわけだ。

 で、これがまた、実に切り口の多い作品である。最大のポイントは、ブラジルだ。なにしろ全14曲中9曲が、ジャキス・モレレンバウム仕切りのリオデジャネイロ録音。バッキング・メンバーには、伝説的キーボード奏者ジョアン・ドナートの名も。おまけにカエターノ・ヴェローゾとジルベルト・ジルのMPB二枚看板が、各々アンリとデュエットまでするという念の入れよう。

 思えばアンリとブラジルの縁は長く、深い。アンリは第二次大戦中にブラジルほか南米各地に数年間滞在し、その時の音楽的収穫をベースに、戦後フランスのラテン音楽ブームを牽引した。また、彼が58年に書いた“Dan Mon Ile(僕の島で)”というラテン調のバラードが、アントニオ・カルロス・ジョビンをインスパイアし、ボサノヴァの発明へ導いたというのも、いまや定説。その功績を讃えて、一昨年には、ブラジル大統領と文化大臣(ジルベルト・ジル)から文化勲章を授与されたりもしているのだ。つまり、フランスの植木等はボサノヴァの父の一人でもあったのだ。アンリはこう語る。

「〈僕の島で〉は、僕が生まれたフランス領ギアナの雰囲気を表現したくて作ったんだ。それを聴いたジョビンは、サンバをゆっくりやって美しい歌詞を加えればいい音楽ができると思ったらしい。僕はそのことを後年セルジオ・メンデスから聞いて驚いた。で、ジョビンの歌を聴いて今度は僕がボサノヴァに触発されたというわけさ。人生は偶然の連続であり、偶然は必然なのかもしれないね」。

 81年のアルバム『Outras Palavaras』でカエターノもカヴァーしたこの運命の曲〈僕の島で〉は、今回の新作でも改めて再録音されている。モレレンバウムのチェロ・ソロもフィーチャーしたシルキーなストリングス・アンサンブルを得て、アンリの歌声も一段と夢見るようなまろやかさを際立たせている。

 その他、パリとNYでの録音も収め、完成したこの新作。70年以上にわたるアンリの芸人人生の頂点に立つ記念碑と断言していい大傑作である。ちなみにアルバム・タイトルの〈Reverence〉とは〈畏敬〉〈最敬礼〉という意味である。

「長い間がんばった自分に最敬礼。いままで出会ったミュージシャンや仲間たちに最敬礼。そして何よりも僕をここまで生かしてくれた音楽に最敬礼したいという思いが、このタイトルにはこもっている。このアルバムで行うツアーが、人生最後になるだろう。もう随分長い間舞台に上がってきたけど、最敬礼をして舞台から去りたいね」。

 憎たらしいほど粋なジイさんである。
(インタヴュー・文/松山晋也)

▼アンリ・サルヴァドールの近作を紹介。


2002年のライヴ盤『Performance!』(Virgin)

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2007年05月02日 17:00

更新: 2007年05月02日 17:43

ソース: 『bounce』 286号(2007/4/25)

文/ヤング係長、松山 晋也