インタビュー

Dizzee Rascal

遊びの時間は終わりだ! 新しいビートの方程式を組み立て、新しいライムの文法を書き換え、新しいストリートの掟を作り出すのは、ディジー・ラスカルしかいない!! デビューから4年経ってもコイツは余裕でフレッシュだぜ!!

イギリスを代表してる


 「最近はスナップスとかサウスのヒップホップにハマってた。すげえ衝撃でさ、〈俺はもう何年もエキサイティングな音楽を聴いてなかったのかな?〉って本気で思っちゃったよ。忘れていた大事なエッセンスを取り戻したような感じだね。特にD4L、デム・フランチャイズ・ボーイズ、ヤング・ジーズィなんかをよく聴いてたんだけど、そのときに閃いたんだ。〈これだ!〉ってね。それまでは3枚目のアルバムということで考えすぎてたりプレッシャーを感じていたりしてたんだけど、彼らの音楽を聴くことによって吹っ切れたよ。アタマで考えるようなものじゃなくて、勝手に足が動き出すようなアルバムを作れたら最高だなって。デビュー前、クラブでDJしてた頃の精神に戻ったんだ。実際、コイツはいままでの作品でいちばんエンターテイニングなアルバムだと思うよ」。

 リリー・アレンとアークティック・モンキーズとUGKを同居させてしまったアルバムが、こうしたマインドに則って作られているという事実だけで興奮できる。ディジー・ラスカル、約2年半ぶりのニュー・アルバム『Maths+English』。前作『Showtime』のリリース時、「エッジを残しながらもより広い層に届くアルバムを作りたい」と語っていたディジーの構想は、ここで早くもひとつの到達点を迎えることになった。

「タイトルの意味? 単純明快だよ。それは俺が日常やってること。つまり、自分の仕事を2ワードで表現したような感じだね。〈English〉はリリック、〈Maths〉はビートや金を表してる。あと、〈English〉にはイギリスを代表してるっていう意味も込められているんだ。今回はイギリスの音楽シーンきっての素晴らしいアーティストたちと曲を作ることができたこともあるしね」。

 アルバム3作目にして、遂に解禁となったビッグネームとのコラボレーション。そのなかにはディジーが敬愛するドラムンベース・マエストロ=シャイFXがピーボ・ブライソンの“I've Been Down”を鮮やかに調理した“Da Feelin'”、先のアークティック・モンキーズとの共演曲“Temptation Greets You Like Your Naughty Friend”のリコンストラクションに挑んだ“Temptation”などが含まれるが、とりわけ強力なのがリリー・アレンを大々的にフィーチャーしたキュートでいてシニカルなアーバン・スカ・ポップ“Wanna Be”だ。リリーのデビュー・ヒット“Smile”でおなじみのフューチャー・カットをプロデュースに迎えたこの曲は、ポール・ウィリアムスが手掛けていることでソフト・ロック・ファンに人気の高い映画「ダウンタウン物語」の挿入歌、“So You Wanna Be A Boxer”の実質的なリメイクになる。

「フューチャー・カットはポップ・ミュージックの職人なんだ。知識もあるしアイデアも豊富で、彼らとの共同作業は本当に楽しかったよ。打ち合わせをしてすぐに“So You Wanna Be A Boxer”を使って曲を作れないかって話になったんだけど、そのままサンプリングしてもつまらないし、〈Boxer〉を〈Gangster〉に変えるとギャングもどきを茶化したおもしろいリリックになることがわかったから、思い切って替え歌にしてみた。で、リリーのヴォーカルが入ったら曲に広がりが出ると思って、彼女を呼んでみたらすぐに来てくれてね。リリーは超プロフェッショナルなんだよ。だってレコーディングはワンテイクでOKだったんだぜ!」。
▼『Maths+English』に参加したアーティストの作品を一部紹介。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2007年06月14日 18:00

ソース: 『bounce』 287号(2007/5/25)

文/高橋 芳朗