インタビュー

T.I.(2)

今回は自信がついたね


  アルバムは計3つの独立したセクションで構成。ギラギラしたラッピンでストリートの流儀を説くT.I.P.が大暴れする第1幕、それとは対照的に洗練されたムードを漂わせるT.I.主導の第2幕を経て、クライマックスとなる第3幕ではついにT.I.とT.I.P.が相まみえる。

「ストリートなT.I.P.はT.I.の態度にムカついてキレちゃうんだ。T.I.があまりにもスターになりすぎちまったからな。今回はただのアルバムを作ろうとしたわけじゃなくて、オペラを作りたかったんだ。オペラってのは歌劇だろ? 音楽と共にストーリーが展開していって、そして結末を迎える。このアルバムもそういう感じにセットアップされてるからオペラなんだよ」。

 そんなT.I.主演のヒップホップ・オペラを演出する制作陣は、ケヴィン“ケイオ”ケイツ、キース・マック、リル・Cといったグランド・ハッスルのハウス・プロデューサーの他、マニー・フレッシュ、ジャスト・ブレイズ、ブラック・モブ・グループ、デンジャ、ワイクリフ・ジョン、ランナーズなど(デビュー以来T.I.のキャリアを支えてきたDJトゥーンプの不参加が気になる……)。また、共演者にはネリーやバスタ・ライムズ、アルファ・メガらの名も確認できるが、やはりT.I.への王位継承発言も話題を集めたジェイ・Z、オルター・エゴを擁するコンセプトに関しては一日の長があるエミネムとのコラボレーションに興味を惹かれる。

「ジェイとの共演には感慨深いものがあったね。いっしょに仕事できてすごく楽しかった。エミネムとのコラボはアルバムのハイライトといえるかもしれない。エムにはオレのほうからアプローチした。彼が今回のコンセプトにすごく興味を持ってくれて共演が実現したんだ」。

 カリビアン・テイストを含んだ中毒性の高いループに痺れる2007年のサマー・アンセム最右翼“You Know What It Is”、ジワジワと熱を帯びていくドラマティックな展開に血が滾る“Big Things Poppin'(Do It)”といった2曲のリード・トラックからも察しがつくように、〈3部構成のコンセプト・アルバム〉や〈ヒップホップ・オペラ〉といった外観から連想される小難しさとは一切無縁の、超一級エンターテイメント大作に仕上がった『T.I. Vs T.I.P.』。難易度の高い題材を見事にクリアしてみせたT.I.の力量には、まさに王者の威厳と風格を見せつけられた思いがする。

「このアルバム制作はある意味で自分をさらけ出す経験になった。すごくパーソナルな作品だね。最初はコンセプトが複雑すぎて仕上げるのは無理だと思ったりもしたんだけど、実際にやってみればできるものなんだって自信がついた。それがいちばんの収穫かもしれない。たとえ難しいことだとしても、やればできるかもしれないって思えるようになったよ」。

▼『T.I. vs T.I.P.』に参加したアーティストの作品を一部紹介。

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掲載: 2007年07月26日 18:00

ソース: 『bounce』 289号(2007/7/25)

文/高橋 芳朗