インタビュー

Build An Ark

あの鐘を鳴らすのは僕たち――スピリチュアル・ジャズの新しい夜明けをめざして、伝説の名手が揃ったアンサンブル、ビルド・アン・アークがまた歩き出した


 ヒップホップとジャズの間、DJと生演奏の間を自在に行き来……。LAのアンダーグラウンド・シーンの顔役プロデューサー/DJであるカルロス・ニーニョが率いるビルド・アン・アークは、往年のスピリチュアル・ジャズ表現の妙味を巧みにいまのものとして浮上させるユニットだ。

「ビルド・アン・アークはLAを拠点としているクリエイティヴ・ソウル・ミュージック・アンサンブルなんだ。僕は作/編曲、それにプロデュースを担当していて、またこのグループの創始者でもありまとめ役でもある。ビルド・アン・アークはデューク・エリントン・オーケストラのようなビッグ・バンドという形式に基づいていて、連帯感、協調性、そして創造力というものを、神秘的でタイムレスな音楽によって表している」(カルロス・ニーニョ:以下同)。

 2004年にファースト・アルバム『Peace With Every Step』を発表してスピリチュアル・ジャズ・ブームの盛り上がりに寄与したビルド・アン・アークだが、ニーニョ自身はスピリチュアル・ジャズをどう捉えているのか。

「スピリチュアル・ジャズの理想はスピリチュアルであることだよ! 僕たちはクリエイティヴであるため、また愛し合うためにいるんだ! 正直で誠実であればあるだけ、その可能性は開いていくと思う」。

 前作同様に新作『Dawn』でトライブ(70年前後に異彩を放ったスピリチュアル・ジャズ・レーベル)の主宰者であるトロンボーン奏者のフィル・ラネリンをはじめ、ドゥワイト・トリブルやネイト・モーガンといった往年の名プレイヤーをビルド・アン・アークに誘っているニーニョだが、彼は本来どんなジャズが好みなのだろう。

「ジョンとアリス・コルトレーンはいつも聴いているけど、彼らの音楽はジャズというよりコズミックで祈りのようなものだと捉えている。あとはインパルスやストラタ・イーストのレコードはよく聴くね。ジョン・コルトレーンの『A Love Supreme』、ユセフ・ラティーフの『Easern Sounds』、それにマイルス・デイヴィスの『Kind Of Blue』にはすごく影響された。これらはクラシックで、僕の宝だよ。楽曲で言えば、ファラオ・サンダースの“Upper Egypt And Lower Egypt”だね。人生に照らし合わせても、この曲には大いに影響を受けた」。

 ファラオの曲は前作に続いて新作でも2曲取り上げているが、それは歌詞に共感できることもポイントなのだとか。また、新作はより肉声を用いるパートが増え、ジャズの機微を介したストーリー性ある大人のアート・ミュージックという趣きもあるが。

「〈Dawn〉とは夜明け、新たな1日の幕開けを意味する。再生、復活、それにリフレッシュされた気持ちというのが今作でめざしたものだ。ビルド・アン・アークはさらにスピリチュアルな領域にステップしたと思うよ。ストリングスと多種多様なリズム、それにミュージシャン、楽器、アレンジ、即興……すべてがあらゆるスピリットを呼び起こすんだ。僕たちはコミュニケートし合っている。すべてが愛の流れのようにフロウしている瞬間が美しいね! 」。

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カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2007年10月04日 16:00

更新: 2007年10月04日 18:18

ソース: 『bounce』 291号(2007/9/25)

文/佐藤 英輔