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インタビュー

Babyshambles

仲間とひとつになれたからこそ、グッド・ヴァイブに包まれたエネルギッシュな新作が完成した。
そしていま、私たちはふたたびピート・ドハーティーの奏でるロックンロールと恋に落ちるのだ!

今回はそれができたんじゃないかな


 ピート・ドハーティという人物の歩みに少しでも興味を持っている人なら、彼がビッグ・マウスという要素からもっともかけ離れたミュージシャンであることはご存知だろう。2002年のリバティーンズのデビューがどれほどUKロック・シーンのあり方と後に出てくる新人バンドに多大な影響を与えたか、そんなことにまるで気付いていないかのように彼は謙虚であり続けた。

 ロックスターをめざそうと思えばすぐに辿り着ける場所にいるのに、リバティーンズ脱退後に結成したベイビーシャンブルズのファースト・アルバム『Down In Albion』を2005年にリリースした後も、彼は名声よりも地に足の着いた活動を徹底した。2006年8月には待望の新曲“Beg, Steal Or Borrow”を〈Get Loaded In The Park Festival〉の会場配布と〈MySpace〉のみで発表。折を見てはUKをツアーし、スコットランドのダンディに訪れた際はデモテープを持ち込んだ少年たちを前座に大抜擢(それこそがヴューだったりする)。もちろん想像力と妄想力の逞しさは人一倍で、これまた有名な話だろうがドラッグ中毒ゆえの突飛な言動も、常々メディアを賑わせている。それでも、思い出してみてほしい。彼は過信とか過剰評価とか、そういうかたちで自分の才能を語ったことだけは一度もない。そんなピートだからこそ、ベイビーシャンブルズのセカンド・アルバム『Shotter's Nation』についてこう語る様には本当に驚かされた。

「正直、自分がこれまで作ってきた他の作品をけなすようなことは口にしたくないんだよ。でも、これが俺だけに当てはまる話なのか、俺がいろんな点で変わってるせいなのかはともかく、俺って人間は他のことにまったく煩わされずに腰を落ち着けて、じっと耳を傾け、自分自身が楽しめるような……そういう作品を作れないみたいなんだよね。だけど今回はそれができたんじゃないかなって、そういう作品が作れたなって思える。もう最高のアルバムなんだ。とにかくそういうこと。(みんなも)聴いて、楽しんでっていう一枚。もちろん俺自身、聴いて楽しんでるよ」(ピート・ドハーティ、ヴォーカル)。

 言葉こそ謙虚だけれど、自信のほどが窺える。何があったんだ、ピート・ドハーティ! というか、正しくはピートがその創造性をまっすぐ音に向けることができたからこそ、このアルバムは特別なものに仕上がったと言えそうだ。前作ではヘロヘロだった歌声も、今作ではきちんと〈歌〉を伝えるものに。サウンドだって従来の〈ガレージ+パンク+フォーク〉からさらなる幅を持ち、キンキー・サウンドっぽいリフもあれば、マッドチェスターのヨコ揺れもブリット・ポップの華やかなメロディーも呑み込んでいる。創造力が爆発しまくっているのはいつものことだが、それがまとまりを持った際のピートの最強ぶりをぜひ味わってみてほしい。
▼関連盤を紹介。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2007年10月18日 22:00

ソース: 『bounce』 291号(2007/9/25)

文/妹沢 奈美