インタビュー

DJ KAWASAKI(2)

硬派なグルーヴの正体

 例えば生ピアノを使う美麗なリフは彼の本領だが、そこはフランキー・ナックルズらのデフ・ミックス一派とは大きく違うところだ。またTakuji a.k.a. GEETEKとのユニット=GK時代に学んだビートメイクのテクニックや、キックやハイハットの音色選びなどは、デトロイト勢に影響を受けているという。KAWASAKIの曲は〈乙女系〉などと括られたりするが、その実すこぶる硬派であることを強調しておきたい。例えばヒプノティックに繰り返される独特のフレージングは、爆音が渦巻くクラブの闇を大いに幻惑させるものだ。

「そこはやはり自分もDJなので、まずフロアでOKなものをめざしているからです。ピアノのループ感にしてもそうで、セオ・パリッシュがやっているようなところですね。古いレコードから録ったフレーズもループにするからこそ新しく聴こえるわけで、そこは凄く考えましたね。そういう部分を出せなければ、逆に普通の歌モノになってしまうんです。“BLAZIN'”にしても、実は〈ワル~いキック〉を使ってるんですよ(笑)」。

 各曲のプロダクションは気心の知れたプレイヤーたちの演奏をサンプリングを使うように録って、組み上げているという。

「思いついたメロディーを口で歌ってはストックしておくんです。それを曲作りを始める時に選ぶ。その時点で〈こんな音色で、歌はあの人かな〉というのが自分のなかでできてるんですよね」。

 ピアノの音がなぜか昔から好きなのだそうで、新作では3人の鍵盤奏者を使い分け、最適なシンガーと組み合わせている。

「僕のなかではキーボーディストとシンガーの組み合わせは絶対なんですよ。菱山翔太くんはポップで華やかでソウルフルな演奏なので、女性が似合う。UKのタシータ・ドムールは可愛くもあるしソウルフルでもあって、そのへんのニュアンスはいちばん好きなところです。SWING-Oさんの鍵盤はアーバンな感じで、ソウルフルな歌がバッチリ合いますよね」。

 R&Bの名ソングライター/シンガーのゴードン・チェンバースや、ガラージ・ハウスのディーヴァであるキャロリン・ハーディングも歌っているが、そこに繋がってくる黒くソウルフルな音楽こそがKAWASAKIのいちばん大きなバックボーンだ。

「ラリー・レヴァンがプレイしたような、ハウス前夜の黒いディスコやソウル。そして現在のクロスオーヴァーなサウンド。ハウスそのものよりも、実はそういう音楽に影響されています。そうしたものを採り入れたうえで自分が考える〈ハウス〉を作っているので、ストレートにハウスをやっているわけではないんです。今後はもっと〈DJ KAWASAKIの音楽〉を打ち出していきたいですね」。

 スティーヴィー・ワンダーとダイアナ・ロスをこよなく愛するという男が作る、歌心に溢れたダンス・グルーヴは、いまもさらなる進化を続けている真っ最中だ。
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掲載: 2008年01月24日 21:00

ソース: 『bounce』 294号(2007/12/25)

文/池谷 修一