インタビュー

The Kills

ギャンギャンのロックンロールにボコボコやかましいビートをプラスして、キルズの2人がみんなをキルしに来たよ! 覚悟はできてる? キル! キル!


 「今回は第1日目からイヤな予感がしたんだ」──ホテルことジェイミー・ハインス(ギター/ヴォーカル:以下同)はニュー・アルバム『Midnight Boom』に費やした1年半を振り返って淡々と語る。

「でもアートって苦難の末に誕生するもので、自分たちにとって大切な作品であれば、どんな辛いことでも耐えられる。逆に楽に出来たものには価値がない気がするしね」。

 このアートへのひたむきな思いが、英国人の彼と米国人のヴィヴィ(=アリソン・モシャート、ヴォーカル)の接点と言えるだろう。2000年に出会った2人はプラトニックなソウルメイトと呼べる関係を育み、ロンドンで活動を開始する。2003年にデビュー作『Keep On Your Mean Side』、2005年に2作目『No Wow』を発表。ツイン・ヴォーカル+ギター+ドラムマシーンという異色の編成で鳴らす唯一無二のダーティーでセクシーなロックンロールが絶賛され、着々とキャリアを築いてきた。そして『No Wow』に伴うツアー終了後の2006年1月、新曲作りに着手。しかしなかなか方向性が定まらず、制作費は底をつき、一時は行き詰まってメキシコに逃亡したほど! その後、40曲ほど書いた時点でやっと道が拓け、夜な夜なレコーディングを続けてアルバムを完成させたのだという(それゆえに『Midnight Boom』なのだ)。ちなみに、困難を極めた今回の制作プロセスにおいて道標的な役割を果たしたのが、1本のドキュメンタリー映画。60年代の米国の都市部で撮影されたもので、プレイグラウンド・ソング、つまり公園に子供たちが集まって寓話じみた歌を歌いながら手を叩いたり足を鳴らして遊ぶ姿を記録した作品だ。

「USの古典文化に関する記録映像を集めたウェブサイトを通じて、この映画に出会ったんだ。オレたちが作ろうとしてる音楽を映像で見せられた気がしたよ。素朴で無駄がなくて、曲調は楽しげなのに詞の内容は暗くて、アル中や暴力亭主が出てきたり。〈こりゃ、まさにキルズだ!〉と思った。その後、一見なんの脈略もない雑多なアイデアが、ひとつにまとまっていったんだ」。

 確かに〈プレイグラウンド・ソング〉という表現は本作に打ってつけだ。マーチング・バンド調のビートを導入したり手拍子だけで歌ったり、とことんミニマル志向でリズムを前面に押し出したダンサブルな曲をラインナップ。なにしろ滅多に第三者をセッションに招かない2人が、スパンク・ロックのアルマーニ・トリプルエクスチェンジの参加を得て、古いシーケンサーで作ったビートを磨いてもらったというから、リズムへのこだわりは尋常じゃない。

「彼がスタジオにいたのは2週間程度ながら、貢献度はデカいね。マシーンで作った音を生々しく処理できる人なんだ。生意気なアティテュードも添えてね(笑)」。

 またリズムが主役になったことで歌詞もリズミカルな表現にシフトし、メロディーはかつてなくアップビートで力強い。

「層の厚い曲ならメロは奥に隠れてるけど、材料を絞ると表面に浮き上がるだろ? でもってインパクトのあるメロとシンプルな歌詞が要求されて、必然的にプレイグラウンド・ソングっぽいノリになるんだよ」。

 そんなわけで、従来に比べるとモノクロからカラーへ移行したかのような大胆な変化を遂げている本作が、2人につきまとっていたガレージ・ロック的なイメージを払拭することは必至。アンチ懐古趣味で未来志向という彼らの本質が、ここにきてようやく伝わるに相違ない。

「そもそもドラムマシーンの存在が、ロックの伝統に則ってないバンドだってことを知らせるに十分な意思表示だと思ってたのに、オレたちみたいなバンドは理解されるまでに時間がかかるんだろうね。ま、自分たちでも何をやってるのかわかってなかったりするし、そこがおもしろいんだけど」。

▼キルズの作品を紹介。

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掲載: 2008年03月27日 16:00

更新: 2008年03月27日 17:43

ソース: 『bounce』 297号(2008/3/25)

文/新谷 洋子