インタビュー

DJ PMX(2)

あたりまえじゃないモノ

 PMXワークスの持ち味と言えば、頑固なまでにUS西海岸のヒップホップ・サウンド、特に95~96年頃のデス・ロウ黄金期/第1次Gファンク・ムーヴメント期を想起させるトラックだろう。もちろん『THE ORIGINAL』にもそのあたりの要素は散りばめられているが……。

「確かにDSでは95~96年くらいの西海岸のサウンドにこだわってるんですけど、今回はもっと2000年以降のサウンドを追求したところもありますね。95~96年の音だと生バンドを入れたグルーヴ感が強調されるんですが、今回は打ち込みでグルーヴ感を出すってのに挑戦してみました。実際は今回も生音を使用してはいるんですけど、あまりそこを強調していないですね」。

 そのグルーヴ感を活かすためだろうか、今作ではシンガーの起用が目立つのだが、誤解を恐れずに言うならば、ポップかつキャッチーでヒット・ポテンシャルの高いメロディアスな楽曲が多く収録されているのが興味深い。それはPMX本人の意図するところでもあり、なかでもHI-Dによるフックのインパクトが強いリード曲“Miss Luxury”は絶品だ。

「キャッチーな曲を作りたいなって思ってHI-Dにトラックを渡したら、すぐ次の日にメールでメロディーが送られてきて、自分がこんなふうになればいいなって思うドンピシャな曲になっていたんですよね」。

 また、驚かされたのは「原曲が凄く好きで、T・ペインみたいなオートチューンっぽい感じの歌を乗せたらイマっぽいカヴァーになるかなと思って」と語る“Turn Off The Lights”で、これはBIG RONの歌でマーク・モリソン“Return Of The Mack”をリメイクしたものとなる。そして極めつけはDSの相棒=Kayzabroと青山テルマが掛け合う泣きのメロウ・ミディアム“Just Another Day”だろう。これはぜひリリックにも耳を傾けてほしい。

「テルマちゃんにせっかくだからいっぱい歌ってもらいたいな、って思ったけど普通のラヴソングにはしたくなかったんですよ。傷ついてる女の子を慰めてる女の子、って感じの歌詞にしてもらって。ラヴソングは他にもあったし、あたりまえのモノじゃないほうがいいかなとも思って。自分の恋愛を歌うんじゃなくて人の恋愛を歌ってる感じですね。オレは竹内まりやとかも好きなんで、ニューミュージック的なテイストがヒップホップで出せれば良いかな、って(笑)」。

 そんなふうに、PMXのプロデューサーとしての引き出しの多さも随所で窺わせる『THE ORIGINAL』は、間違いなくこのシーンにさらなる活気をもたらすことだろう。もうすぐ夏もやってくるしね!

▼『THE ORIGINAL』に参加したアーティストの作品を一部紹介。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2008年06月26日 16:00

ソース: 『bounce』 300号(2008/6/25)

文/升本 徹