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インタビュー

安室奈美恵

最高のフィクションの向こう側に垣間見えるリアル──新たな黄金時代を謳歌するクイーンの現在とスタイリッシュな6年間の歩み、そして……


  安室奈美恵が約6年ぶりにリリースするベスト・アルバム『BEST FICTION』。本作にパックされた彼女の足跡は、それ以前のプロデューサーだった小室哲哉からの巣立ち→SUITE CHICでの活動→自己のスタイル確立へ、という流れになる。なかでも彼女が2003年に立ち上げた別名プロジェクト=SUITE CHICは大きなターニングポイントになったことだろう。SUITE CHICでの活動を足掛かりに、彼女の音は急速にR&B/ヒップホップ寄りに変化し、強度とおもしろみを増してきたわけだから。

「SUITE CHICで好きなことをやらせてもらったうえでも、まだいろんな葛藤があって、凄くモヤモヤ感があったんですよね。で、〈そうじゃない。自分のやりたいことは何だろうな?〉って考えた時に、こだわるところが変わってきたんです。自分が100%自信を持ったものは作品からその空気が滲み出ちゃう。本当に自分が楽しければ楽しく見える。そういうのって聴く方にも伝わるんだなって。そこから、いま自分が本当に良いと思ってるものを探していくようになったんです」。

 彼女がその切り替えポイントとして挙げた曲は“GIRL TALK”と“WANT ME, WANT ME”。心底気に入ってリリースを強く願ったというこの2曲のヒットが、果たして、作品作りに不安を抱えていた彼女に勇気と自信を与えた。また、いまの安室に欠かせないT.Kura & michicoが初めてシングルを手掛けたのも“GIRL TALK”。初めてmichicoと仕事をした時は「michicoさんの作る〈ハジけた感〉とか〈やり遂げた感〉とか、〈ぶっちゃけ感〉とかが大好きだったし、自分のなかにある好きなものを〈あ、これだ〉って認識した感じだった」と語る。実際、彼女は彼らとタッグを組むようになってから独創的なダンス・ミュージックを作り上げるようになっていく。特に“FUNKY TOWN”以降は、自分の理想の女性像を遊び心たっぷりに具現化し、それを同世代の女性に向けたメッセージ・ソングへと昇華。時代のトレンドを採り入れた新しいサウンドに次々と挑戦し、鋭角的でスタイリッシュな〈最高のつくりもの〉を生み出し続けてきた。

「SUITE CHICでmichicoさんに会った時に、いままでとは違った見せ方、伝え方ができるんじゃないかなって思ったんです。歌詞だけ見てても凄い楽しいっていうか、言葉の選び方やフロウが凄くオシャレだったり、新しいキーワードが入ってたりするから。こういう楽曲をやらせていただくのが、いまは私のパーフェクトに近い状態なのかなって思う。いまの私にはmichicoさんの歌詞だったり、Nao'ymtさんの歌詞やメロディーが合ってるんじゃないかって思います」。

 そのNao'ymtも現在の彼女にとって切り離せないソングライターだ。今回のベスト盤に収録された新曲“Do Me More”もNao'ymt作品。セクシーな誘惑ソングで、トランス~ハウス~エレクトロ風味のR&Bという、時代の潮流に乗った仕上がりとなっている。もうひとつの新曲“Sexy Girl”は、SUITE CHIC期を支えた今井了介の作品。こちらは女性をチアアップする内容で、80年代後半のエレクトロニック・ファンクを下敷きにしたようなナンバーだ。

「“Do Me More”は凄くクール。ストーリーが思い浮かぶというか、ここまでどっぷり雰囲気がある曲はやったことないなって。“Sexy Girl”は“HELLO”(『PLAY』収録)の続編みたいな感じ。女の子たちが集まって〈男の子どーする?〉とか話してて、みたいな(笑)。ライヴでやっても、きっとパーティーな感じで楽しいだろうなっていう印象ですね」。

 一曲一曲、自分のやりたいことにこだわって、その仕上がりをじっくり吟味しながら、いまの作風を作り上げてきた安室奈美恵。当初は自分の楽曲が気に入ってもらえるかどうか、聴き手のレスポンスに怖さを感じていたが、いまはそれも楽しみになってきたという。

「反応に対する感情はだいぶ変わってきました。現実をいろいろ見て、上手くいくことも失敗することもある、私の曲を好きだって言う人もいれば嫌いだって言う人もいる、それはあたりまえのことで、それは2つで1つなんだってことに気付いた。みんなに好きだって言われるのは無理な話で、だったら、ちょっとずつ自分のできる範囲内でマイペースにやっていけばいいかって。最初は、自分でやりはじめたのはいいけど、〈なんで? なんで?〉っていう焦りが凄くあったかもしれない。でも、途中で焦らずにやっていったほうがいいことに気付いたんです。恋愛のようにね、焦ってガッついちゃいかんと(笑)」

 この6年間は、あらゆる意味で安室奈美恵の変革期だった。では、今後、彼女のものづくりのスタンスはどう変わっていくのか。

「マイペースすぎず、マイペースを保ちつつ、働きつつ(笑)。最近はスタッフ・ワークが自分の感覚にフィットしてる感じがあるんです。自分のアイデアを話せるクリエイターが周りに増えてきているし、スタッフとの距離が縮まっていけば、たぶん、やってることは同じでも、出来上がりはまた違う作品になってくるんだろうなって。だから、今後は自分が本当にやりたいことをより忠実に形にすることをもっと追求していけるかなって思ってます」。

▼安室奈美恵のオリジナル・アルバムを紹介。

▼安室奈美恵のシングルを紹介。


2002年の“Wishing On The Same Star”(avex trax)


2003年の『SO CRAZY/Come』(avex trax)

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2008年07月31日 22:00

ソース: 『bounce』 301号(2008/7/25)

文/猪又 孝