インタビュー

PRISCILLA AHN

どこまでも温かく、どこまでも心地良い柔らかな歌声。それは私たちの毎日を〈Good Days〉に変えてくれる、不思議な光を纏っていて……


  この柔らかで穏やかな歌声と出会ったのは、去年からタワレコの渋谷店で推されていた5曲入りのEP盤『Priscilla Ahn』によってだった。そのメイン・トラックである“Dream”を聴いて、瞬間的に恋に落ちた。多くの人がきっとそうであったように。

「あのEPはたった5日間で作ってしまったものなの。自分たちのなかでやりたいことがわかっていたから、考えすぎることなく自然に作れたわ。いま聴いても大好きって思えるし、よくプレイしている。あっ、でも、“Lost”という曲だけはもう歌ってないの。気分が滅入った時にしか、あれはもう聴かないわ」。

 優しい陽光のよく似合う歌声だ。少女的なところを残していながら、成熟した雰囲気もある。夢見がちなようで、感情の深みも表現する。そんなプリシラ・アーンは、アルバム『A Good Day』でブルー・ノートからメジャー・デビューを果たしたシンガー・ソングライター。ペンシルヴァニア州に育ち、現在はLAを拠点に活動している24歳だ。

「フォーク・ミュージックがいちばん好き。ジョニ・ミッチェルやニック・ドレイクのようなアコースティック・ギターのメロウな音色が大好きなの」。

 そう話す彼女は、地元のコーヒー・ハウスで16歳の頃からギターの弾き語りを始め、LAに移ってからも地道にカフェなどを回って歌ってきた。PCで曲を作り、〈MySpace〉から火が点いてデビューする新人が増えるなか、むしろ古典的なタイプのシンガー・ソングライターと言えるだろう。とはいえ、アルバムではフォーキーな曲にやりすぎない程度のおもしろみを加え、聴き触りの引っ掛かりを持たせもする。

「まず私がギター一本でフォーク調にスタートし、そこにファンキーなオルガンの音とかヴィブラフォンとか、ちょっと変わってて楽しいサウンドを乗せていくというやり方よ」。

 本作のプロデュースは、先のEPと同様にジョーイ・ワロンカーが担当。ベックのバンドでドラムを叩き、比較的最近ではバード・アンド・ザ・ビーの作品にも関与していた彼と、ウィロウビーのガス・サイファート(やはりバード・アンド・ザ・ビーや、シアの作品も手掛けている)、そしてプリシラの3人が組んで生演奏し、主となる部分を録音した。

「ほぼ全曲でベースやギター、ピアノなんかを演奏しているのがガスよ。このアルバムにおいて彼の力はとても大きかったわ。ガスは私が知らないこともたくさん提案してくれたの」。

 余談だが、ウィロウビーの“Frankenstein”という曲のプロモ・クリップをチェックされたし。そこに登場する女性のひとりは、化粧はやけに濃いが確かにプリシラである。それはともかく、ジョーイについてはこのようにコメントしている。

「ガスがどんどんアイデアを加えていくタイプだとすれば、ジョーイは必要な音だけを選別してくタイプね。じゃないと、トゥー・マッチになってしまうから」。

 ウクレレとミュージカルソーとベルの音だけに乗せて歌われる“Find My Way Back Home”を聴くと、まさに〈豊かなアイデア、簡素なサウンド〉というその粋な実践がなされていることに唸ってしまう。ちなみにこれ、アルバム中で彼女がいちばん気に入ってる曲だそうな。

「歌うたびにステキな気分になれるの。私の彼のことを歌った曲で、彼は私の考えるホームのような存在。彼がいなかったら私はホームをなくした気分になると思う。特にツアー中、彼に会えない時にあの曲をよく歌っているわ」。

 そんな乙女心が胸キュンを誘いもする純情派シンガー。間違っても濃厚でセクシャルなラヴソングなどは歌わない。

「そういうラヴソングを歌うタイプじゃないのよ、私は。あまり社交的じゃないし、たくさんの人と付き合ったりもできないし。もう2年くらいいまの彼と付き合ってるわ。そういえば1曲だけ直截に愛のことを書いた曲があったんだけど、どうしても私らしくない気がして、もう歌うのをやめてしまったの」。

 それ、ちょっと聴いてみたい気もするが……。


2007年にリリースされた、プリシラ・アーンのEP盤『Priscilla Ahn』(Handheld)

▼プリシラ・アーンのお気に入り盤を紹介。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2008年09月04日 21:00

更新: 2008年09月08日 15:56

ソース: 『bounce』 302号(2008/8/25)

文/内本 順一