インタビュー

コトリンゴ

籠の中の小鳥が、フワフワリ~と大空へ飛び立った。表現者としての確かな自信を手に入れた会心作!


 「実はデビューする時に〈バークリー出身〉っていうのを出したくなかったんです。胸張って〈ジャズやってます!〉って感じでもなかったし、そういう目で期待されるのはちょっと……って思ったり。でもファースト・アルバム『songs in the birdcage』を出して、〈これが私です!〉ってようやく言えるようになった。それで次にやりたいことが自然とできるようになったんです」。

 2006年秋、バークリー音楽院出身云々という触れ込みと共に鳴り物入りでデビューしたコトリンゴが、長く滞在していたNYから帰国し、日本に活動拠点を移してからすでに1年以上が経過した。ピアノの腕も作曲能力も、彼女を発掘し、プロデューサーとしてバックアップした坂本龍一の折り紙付き。ライヴなどでその才能のほどを生で実感する機会も増えてきた。だが、年頭のミニ・アルバム『nemurugirl』を挿んで、1年3か月ぶりに届いたセカンド・アルバム『Sweet Nest』は、そうした〈アカデミックな〉文脈から積極的にハミ出ようとした一枚だ。簡単に言ってしまうと、これはまごうことなくポップスであり、それ以上でもそれ以下でもない。誰の手にも簡単に届く場所に自分はいるのだ、とでもいうような低くカジュアルな目線の先に新作がある。

「2001年に一度日本に帰ってきた時にTVを観ていたら、たまたまクラムボンが出ていたんです。高校時代は渋谷系の音楽は好きだったんですけど、日本のポップ・ミュージックはあまりよく知らなかったんです。でもその時聴いたクラムボンは(原田)郁子ちゃんの声もピアノも好みだったし、全体の雰囲気も好きで。日本語の歌もイイなぁと思ったきっかけのひとつだったんです。別に何とか自分を変えていこうって思っていたわけではないんですけど、昨年日本に戻ってきてライヴをたくさんするようになって、自然と気持ちが開かれていったのかもしれませんね」。

 ニュー・アルバムではそのクラムボンのmitoがみずから作曲/アレンジを担当し、盟友のおおはた雄一が作詞した“ふれたら”他2曲をプロデュース。オータコージ(曽我部恵一BAND)、柏倉隆史(toe)、坂田学といった個性派ドラマーが多数参加しているのも注目に値するだろう。前作のプロデューサー、坂本龍一が関わったナンバーも1曲含まれているが、コトリンゴ自身が全面的にプロデュースした今作は、ピアノと打ち込みが中心だった前作でプレイヤー/コンポーザーとしての力量を試していたのに対し、今作はヴォーカリスト/パフォーマーとしてのコトリンゴをフィジカルに表現した内容だ。結果、明確に聴き手と繋がろうとする働きかけを感じ取ることのできるキャッチーな楽曲が増えた。彼女自身の歌声にも言葉をしっかり伝えようとする〈強さ〉が備わってきている。

「私、トーンが高くて細い自分の歌声にあまり自信がなくて。で、実はこれでもヴォイス・トレーニングをしたりしてるんですよ(笑)。でもそれによって少し自信がついて、生のドラムが作るバンド・サウンドをぶつけてみたくなったんです。あとはこれをライヴでちゃんと表現できるかどうか、ですね(笑)」。

▼『Sweet Nest』に参加したアーティストの作品を一部紹介。

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掲載: 2008年09月25日 00:00

更新: 2008年09月25日 17:02

ソース: 『bounce』 303号(2008/9/25)

文/岡村 詩野