サイプレス上野とロベルト吉野
敷居は低く、志は高く、明快なラップと〈allグッド何か〉を武器に、どんな現場もロックしてきた横浜のプリンスたち。さぁ、ここでドリームの続きを見せてくれ!
「『ドリーム』の特典DVDを作ったときも過酷な状況でやりたいって、すぐそっち方向に持ってっちゃう。人が花見をしてるところにターンテーブルのセットを置いてやってたら、途中からカオス状態になって(ロベルト)吉野は川に飛び込んじゃったりとか(笑)。俺が喋ってる後ろで、目隠しした後輩にションベンぶっかけてるヤツがいて、それも全部映像に入ってるっていう。そこまでやってようやく、〈今日おもしろかったね〉みたいな」(サイプレス上野、MC:以下同)。
流石にこの話は度が過ぎてるとはいえ、過酷な状況もしたたかに、とことん楽しむ感覚はまさにサイプレス上野とロベルト吉野のショウにも通じるものだ。
サイプレス上野が中学時代の後輩、ロベルト吉野(DJ)を口説いてコンビを結成。ヒップホップのコアな部分を体現しつつ、そこに笑いも交えて敷居を低く表現する2人のライヴは、畑違いのイヴェントでも、それこそ過酷な現場でもそこにいる人々を巻き込み、ファンを増やしてきた。
「ヒップホップのなかでは絶対に負けないけど、5人組のバンドとかに対抗して2人で何ができるかってことばっかりをずっと考えてきた」。
YOUR SONG IS GOODや曽我部恵一からPAYBACK BOYSのようなハードコア・バンドまで、2人が幅広いアーティストから共感を集める所以もそこにある。そして2人はいまや、ますますジャンルを越えたさまざまな現場へと駆り出されている。「作りたいもん作って俺たちこんな感じっす」と提示した前作『ドリーム』に続くニュー・アルバム『WONDER WHEEL』も、そんな2人のしたたかなライヴ活動と地続きで生まれたもの。グループの音楽をもう一段上のレヴェルで〈真っ当〉なものとするべく、スキル重視でよりストレートな曲調と歌詞を中心に組み立てられている。
「俺たちが好きな曲でも、何言ってるかわかんないような曲はライヴでやっても全然盛り上がんないんですよ。だから今回はサビとかに関しても全部ハズしたくないっていうのがあった。ハードコアの曲で何を言ってるかわかんない、何十秒で終わるような曲もすげえかっけえなと思うし、そういうことをやってる人たちが羨ましいときもある。でも日本語ラップが好きでラジオもやらせてもらったり、地方行ってフリースタイルを仕掛けてこられたりするようになると、認められてるっていう責任感が俺と吉野のなかで出てきて」。
もっとも、わかりやすい側面を強めながらも、〈ひねり好き〉な彼らがその身に忍ばせるしたたかさは、本作でも不変だ。壮大なトラックにヒップホップらしい大風呂敷を広げつつ、先輩にどつかれる歌詞が広がる“Prince Of YOKOHAMA”、TVの向こうのアイドルやお笑いも引き合いに出した“担当者不在”などは、彼らのそうした側面を代表する曲。さらにはSLY MONGOOSEとのセッションのもと、ダンスフロアでも機能させるべく生音のグルーヴをうねらせた“Feel Like Dance”からは、2人が自分たちの座右の銘と掲げる〈HIP HOPミーツallグッド何か〉の真髄と、そこから繋がる幅広い交流の一端が窺えるだろう。
「キャッチーな部分もあるけど、実はすげえコアっていうこだわりも入れたい。俺たちヒップホップに対して甘やかしは絶対しないけど、万人にちゃんと噛み砕いて教えるから聴いてほしいっていうのがすげえある」。
音楽とリスナーの垣根を取り払い、これからもその間を埋めていくサイプレス上野とロベルト吉野の音楽が、より大きな会場で鳴り響かんことを。
▼サイプレス上野とロベルト吉野の作品を紹介。
▼『WONDER WHEEL』に参加したアーティストの作品を一部紹介。
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カテゴリ : インタビューファイル
掲載: 2009年02月12日 13:00
更新: 2009年02月12日 18:06
ソース: 『bounce』 306号(2008/12/25)
文/一ノ木 裕之