インタビュー

Keyco

母だからこそ、恋する女性だからこそ描ける、甘くて優しい歌の数々――驚かないでね、これがいまの彼女なんです!


  「言ってみれば開き直りですね。〈これがKeycoです、スミマセン〉みたいな(笑)」。

 5年ぶりのニュー・アルバム『Walk in Romantica』をKeycoはそう総括する。淡くて甘くて温かい――確かに〈こんなKeycoは意外〉と思う人がいるかもしれない内容である。そう、ラッパーとクールにせめぎ合う男勝りな姿や、ゴリゴリのダンスホール・レゲエを乗りこなすイケイケな姿、そんな彼女しか見たことのない人だったら……なおさらだ。

「その時々の自分のリアリティーを大切に表現したいんですね。昔はまるで男のようにアグレッシヴになってみたり、官能的でムーディーな夜の音に憧れたり……音には毒気があるほうがカッコイイというか、そんな傾向が以前はあったけど、いまはそうじゃない。7歳になる娘と共に幸せであること、そこがいちばん大切なんですよ。で、そういう日常を表現しようとすると〈麗らかな午後〉みたいな太陽光線の似合う音になる。娘と2人でケーキでも食べながら昼聴きできるようなレイドバックした音が、いまの私のリアルなんですよね」。

 といっても、ダンス・ミュージックを追及し続けている彼女ゆえにおしとやかなヒーリング・ミュージックになるはずはなく……。今作にもしっかり〈踊れるグルーヴ〉が搭載されている。

「聴きやすいんだけど、どこかエッジーな部分は注入しておきたくて。それこそ私の好きなエリカ・バドゥやジル・スコット、アメール・ラリューのようなね。腰でリズムを刻める感じのグルーヴは大切にしたかった。ジャンルの解釈は自由だと思っているけど、新作をあえてわかりやすく説明するならネオ・ソウルとかヒップホップ・ソウルなのかな」。

 プロデューサーは、彼女のバック・バンドを務める鼓響のギタリスト=TEA、アメール・ラリューのサポート・ベーシストとしても活躍するLA在住のジェフリー・コナー、スピリチュアル・ジャズ・ヒップホップ・バンドのovallでベースを弾くShingo Suzukiといったミュージシャン勢で、まさしくネオ・ソウルならではというべき生音の美しさを活かしたメロウな曲が揃っている。1枚のアルバムでさまざまなジャンルを横断するような過去作とは一線を画する、こうした統一感のあるサウンド・プロダクションも今作の特徴といえるだろう。

「前作まではとにかく知りたがりの自分がいて、いろんなジャンルの人とコラボレートすることにリアリティーを求めていたんですよ。でも今回は自分の核となるホームな音を作りたいと思った。頭で考えるんじゃなく、やりたい音をナチュラルに求めよう、と。だからこのアルバムは5年間かけて辿り着いた自然の結果なんでしょうね」。

 その5年という月日の思いはリリックにも投影されている。

「究極の開き直りは、そこ(笑)。いざ自分がシングル・マザーになって愛というものを考えた時に、カッコつけたり、突っ張ったりなんてできないんですよ。いつだって女性には愛が必要。それを素直に歌いたかった。いまはネクスト・ラヴを育み中だけど、そういう人生だってある。だから、このアルバムは〈素敵になりたい〉〈幸せになりたい〉って思って努力しているすべての女性へのエールなんです」。

 タイトルには「男も女もお互い高め合ってキラキラさせて、一生ロマンティックでいましょう」という願いが込められているという。一人でも立てる強さと、二人だから歩めるだろう甘い未来と、Keycoだからこそ描ける歌が、『Walk in Romantica』にはぎっしり詰まっている。

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掲載: 2009年07月22日 18:00

ソース: 『bounce』 312号(2009/7/25)

文/岡部 徳枝

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