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インタビュー

LEE EVERTON

あなたのために、自分自身のためにいま届けたい優しい歌――レイドバックしたアコースティック・サウンドに乗せて、今日も彼はギターを爪弾く

  「僕は歌う時、ロバート・ジョンソンの純真無垢さやジャニス・ジョプリンの情熱、ガーネット・シルクのスムースさ、ボブ・ディランの表現力の豊かさ、そしてボブ・マーリーの快活さに少しでも近付けるよう努めているんだ。でもまだそのゴールには、ひとつとして近付くことすらできていないけどね(笑)」。

 スイスで生まれたシンガー・ソングライターのリー・エヴァートンは、ミュージック・ラヴァーの多くがそうであるように、ジャンルに縛られて音楽と向き合うことなど絶対にしない……と思う。レゲエをベースにしつつも彼が自由な感性で楽曲を作っていることは、本人の発言からも窺えるし、また初作『Inner Exile』(2007年)が多くの人の耳に留まり、いまだセールスを伸ばしている事実もそれを証明するひとつの指標となるだろう。もともとヒップホップのトラックを作っていたというリーは交通事故がきっかけでアコギを手にし、自分の気分にフィットする音楽を探しはじめたという。そして辿り着いたのが、〈スリング・スタイル〉という独自のリズム・パターンだ。

 「音楽的な観点からすると、〈僕はレゲエをやってる!〉って言っちゃうのは必ずしも正しくはないんだよ。〈スリング・スタイル〉の持つムードは確実にルーツ・ロック・レゲエから影響を受けたものだけど、いわゆるワンドロップとは別種。事故以来、バックビートの2拍目と4拍目に違和感を覚えてしまって、それでもう少し静かで複雑なこのリズムが生まれたんだ」。

 専門的なことはわからないが、確かに今回登場したセカンド・アルバム『Sing A Song For Me』からも、前作と同様にベースやスネアを極端に際立たせるような、レゲエ特有のシンプルかつ力強いバックビートはあまり聴こえてこない。代わりに、緩やかなリズムでリスナーをそっと包み込んでくれる。恐らくAORやフリー・ソウルとして受け入れている人も少なくないだろうその音楽を、彼自身「オーガニックでアーシーなセピア・ブラウン」と色に例えてくれた。そんな〈セピア・ブラウン〉な世界観をリズムと共に作り上げているのが、少し鼻にかかった、まるでハミングみたいな歌声である。

 「僕は10代の頃に間違ったヴォーカル・テクニックを使ってしまったために喉を痛めているんだ。だから声の使い方には慎重にならざるを得ない。でも、この2年間で僕の喉もちょっとは強くなったんだよ。もっとも、いちばん大事にしているのは曲のヴァイブに乗って、曲を本当の意味で感じるってことなんだ」。

 期せずして手に入れた現在のスタイル。新作のなかには〈強くなった喉〉を確認できるような、バンド・アンサンブルを活かしたロック・チューンやヒップホップ・テイストの賑やかなナンバーも用意されているが、収録曲の大半は優しいリズムとヴォーカルを真ん中に据えたメロウな楽曲だ。

 「アルバムには愛をテーマにしたリリックが多いんだ。愛は僕にとってもっとも強い感情を呼び起こすものだから。もちろん曲を作っている時に、大恋愛をした相手と別れたことも影響しているとは思うけどね。僕にとって愛とは何か――その答えについていつも考えているよ」。

 爽やかな秋晴れの下、ゆっくりと愛について考えてみるのも良いかもしれない。もちろん、傍らにはリーの歌声を添えて。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2009年09月16日 18:00

ソース: 『bounce』 314号(2009/9/25)

文/山西 絵美