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インタビュー

Kentaro Takizawa

伝統と革新、重厚さと軽妙さ――この大バコからはハウスが備えるべき楽しさのすべてが響いてくる。そこらの薄味なヤツとは違うぜ!


  小学6年生で初めて聴いたハウス・ミュージックに触発され、19歳でDJデビューした生粋のハウス・ミュージック・ラヴァー、Kentaro Takizawaのニュー・アルバム『BIG ROOM』が完成した。通算4枚目のオリジナル・アルバムにして、満を持してのメジャー・デビュー作だ。これはもう、気持ち良いくらいにズバッと直球ストライク! 彼らしさに溢れた、エモーショナルでアップリフティングで、ポップでキラキラで爽やかな、理屈抜きに気持ち良いアルバムとなっている。アルバムを貫く世界観も、プロダクション・スキル的にも確実にネクスト・レヴェルに辿り着いたと言っていいだろう。

「前作『Heart to Heart』を作ってる最中は、出来た後はもっとネクスト・レヴェルに行けてる未来像があったんです。でも、完成してからモノとして聴いた時に、まだネクスト・レヴェルじゃないな(笑)みたいな感じを受けちゃって。あとは、世の中のハウスというものの捉えられ方がどんどんおかしくなっていったような気がするんですよ。わかりやすい例でいうと……現場と某配信チャートとの温度差が凄くあって、そういうのもおかしいな、とか。それらが全部成立するような本来あるべき姿のハウスを、自分の作品でやりたいなと」。

確かに今回の『BIG ROOM』は、近年の〈国産ハウス〉ファンにはたまらない内容に違いない。ただ、それぞれの楽曲のネタは意外に王道ハウス的なところにあったりするのだ。例えば、Ryoheiと澤辺美香をフィーチャーした“Heart Beat”のシンセ・リフはマニュエル・ゴッチングの大名作『E2-E4』を思い出させるし、ジョイ・カードウェルが歌う“Unity”の美しいピアノ・イントロがフランキー・ナックルズ的だったりとか、キマラ・ラヴレースを迎えた“Change For The Better”で聴けるコーラスのネタ元がジャスパー・ストリート・カンパニーの“A Feeling”だったり……主に90年代初期のハウス・ミュージックが〈時代の最先端のポップス〉だった頃のエレメントが、作中には数多く散りばめられている。

 現在29歳、早熟だった彼ならではのネタ感覚と現代に生きる20代の若者としての同時代感とのコンビネーションによってクリエイトされた、本来そうあるべきハウス像――そんな意識はフィーチャーされているシンガーたちのラインナップにも如実に現れている。先述のジョイやキマラ、レディ・アルマ、リサ・ショウといった実力派の海外ヴェテラン勢に加えて、Jazztronikのメイン・ヴォーカリストとして活躍する有坂美香や、Ryohei、SAWAといった国産ハウスではお馴染みの面々、さらにファッション誌で人気の読者モデル・澤辺美香を迎えたバランス感覚も特徴だ。

 「最初にあったイメージとして、〈王道感〉が欲しいなっていうのがあって。ホントに僕も憧れの海外シンガーの方々なんですけど。本当のハウス・セッションって、そういう人とやることによって生まれると思ったんですよ。で、それはそれであったんですが、果たして自分にとって、日本人だからできるハウス・セッションって何だろうって思ったら、憧れよりもやっぱり周りのみんなで作ることがそれだと思って。いちばんその〈ハウス・セッション感〉が表れたのは全員参加の“Keep Love Together”ですね」。

 つまり、ポップなハウス・ミュージックを入り口とするリスナーや同世代の仲間たちに、音楽的にもシーン的にもさらなる奥行きへの道筋を示そうとしているのが今回の『BIG ROOM』なのだ。ディープなルーツを背負ってポップの最前線に立つKentaro Takizawaの音楽に、老いも若きも耳を傾けるべし!

▼『BIG ROOM』に参加したアーティストの作品を一部紹介。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2009年11月25日 18:00

ソース: 『bounce』 316号(2009/11/25)

文/長谷川 賢司

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