こんにちは、ゲスト

ショッピングカート

インタビュー

A Wonderful Happenings!

バンド史上最大規模のツアーを追った、SAKEROCKのチャーム満載のドキュメンタリー「ぐうぜんのきろく 3」。涙……はないけど、笑いあり、感動あり、マジギレありの143分!

  聴いてよし、観てもよしのSAKEROCK。アルバムに追いつけ追い越せとばかりに作り続けてきたDVDの最新作「ぐうぜんのきろく3」がリリースされた。2009年はCDのリリースこそなかったものの、DVDは「ラディカル・ホリデー その1」に続いてこれで2作目。いかにバンドがDVD制作を楽しんでいるのかがよくわかる。〈そんなに好きなの、DVD?〉という率直な質問に対して、星野源かく語りき。

 「僕らってまだビデオ世代なんですよ。その昔、ミュージック・ビデオといえば、30分くらいしか入ってなかったじゃないですか? すごく物足りなかったんですよね。それで〈ぐうぜんのきろく〉シリーズでは、演奏の録り直しもしないで自分たちの良いところも悪いところも全部記録しようと思ったんです。バンドのDVDって、大抵カッコいいところだけ編集して残すでしょ? でもSAKEROCKは、4人の普段の感じがもっと伝わるのがいいなと思って。それがすごく楽しかったんですけど、作っていくうちに〈そのまんまを見せる〉っていうのに限界が訪れてしまって。〈ぐうぜんのきろく2〉は222分でしたからね、偶然を見せるにもほどがあるというか(笑)。それで、いろいろ作り込んでみたのが、SAKEROCKの2008年を総決算した〈ラディカル・ホリデー〉だったんですけど、もう一本、2009年のツアーを映像にまとめようと思った時に〈ぐうぜんのきろく〉を観直して、もう一回やってみたくなったんです」。

 2009年のツアーとは、日本を縦断するバンド史上最大のツアーで、ゴールはバンド史上最大のハコ、SHIBUYA-AX。DVDではオフショットを交えたツアーの様子を中心にしながら、AXでのライヴが挿み込まれていく。

 「これまでは、山岸聖太、大原大次郎、そして僕の3人が〈山田一郎〉名義でDVDの演出や編集をやってたんです。でも今回は聖太さん一人に監督を任せようと思いました。聖太さんが思うSAKEROCKのおもしろさを撮ってもらおうと。僕が参加してきたこれまでのシリーズが内側から見たSAKEROCKだとしたら、今回は外から見たSAKEROCK」。

 その結果、〈そのまんま〉なユルさをベースにしながらロード・ムーヴィー的な流れも加えられた本作は、老若男女が楽しめるシンプルな(といっても2時間半ある)映像作品に仕上がった。ツアーの先々で電車撮影や城めぐりに温泉と、旅を満喫するメンバーたち、それを横目に「何がおもしろいのかわからない」とこぼす星野(「その日のライヴのことをずっと考えているから、気持ちの寄り道ができない性格なんですよ(苦笑)」)。しかし、そんな星野も海を見たとたん、思わずシャウトする(「海は好きですよ。興奮します!」)。そうした道行きのなか、ハマケン(浜野謙太)の突然の失踪が本作最大のミステリーだ。手掛かりは〈ブルーシャトー〉。そのあまりにヒドすぎる結末は本編で観てもらうとして(「50代のおばちゃん相手にですよ!」)、本編でたびたび紹介されるのが、ハマケンのスキャットと伊藤大地のドラムによる即興合戦、SAKEROCK名物〈対決〉コーナーだ。そこには彼ららしい絶妙のエンターテイメントがある。

 「だいたい、ライヴのいちばん最後にやるんですけど、お客さんが盛り上がらなかった時でも、ハマケンがぜんぜんおもしろくない時でも、あれだけで30分ぐらいやってる時があるんですよ。最後にすごくおもしろいのが出て盛り上がると異様な空気になるっていう(笑)。僕らはそんなに演奏がうまいわけじゃないし、リハーサル・スタジオのなかでああだこうだ言いながら適当にやったものがいちばんおもしろかったりする。たまたま大地君のドラムがヘンなことになって、それにみんなが合わせたのがおもしろかったり、何気なくハマケンにやらせたことが可笑しかったり……。でも、それは何度も練習しちゃうとおもしろさが消えてしまう類いのものなので、それを舞台上でやれるようにするというのが僕の目標なんです。だから即興とかはバンドにとって欠かせないし、自然とそういう方向、みんなが楽しめる方向に行くんですよね」。

 SAKEROCKのエッセンス、限りなく遊びに近い即興の数々(=ぐうぜんのきろく)がたっぷり味わえるのも本作の醍醐味。素知らぬ顔をして、知らないうちに何か奇妙なことが進行している。そんなSAKEROCKのユルい魅力が詰まった「ぐうぜんのきろく3」には、コタツとみかんがよく似合う。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2009年12月24日 19:00

ソース: 『bounce』 317号(2009/12/25)

文/村尾 泰郎